「イニシアパ?(1)」(2018年10月03日) ジリリリ・・・・とジャカルタの自宅の電話機が、夜も更けたころに鳴る。受話器を取り 上げて「ハロー」と言うと、かけてきた電話相手が開口一番「イニ シアパ(Ini siapa)?」 と尋ねてくる。 電話をかけてきた方が自分の名前を名乗るのが世界中の常識であるはずなのに、この電話 相手のインドネシア人はそんな礼儀すら知らないのか?いったいインドネシア人の電話に 関するエチケットはどうなっているんだ? 普通の日本人ならそう感じるのが当たり前であり、数十年前の在インドネシア日本語掲示 板にもこの種の礼儀知らずインドネシア人に関する憤慨の投稿が頻出していた。 しかし、「郷に入っては郷に従え」という栄枯不滅の鉄則を仕方なく受け入れて、自分を そんなインドネシアの常識に合わせて行ったひとがほとんどを占めていたようだ。最近の インドネシア新参者もきっと似たようなことを体験していると思うのだが、インターネッ トへの書き込みは昔ほど多くないように見える。 中にはインドネシア語に関する誤解がそこに混じっているように思えるものもある。この 「イニシアパ?」というのは決して名前に焦点を当てている質問でなく、相手が何者かを 尋ねているにすぎない。大勢の日本人憤慨者が感じた、「相手に電話をかけておきながら、 電話に出た相手の名前を尋ねる」という非礼、というか常識外れ行為がそこで展開されて いるわけではない、ということだ。 電話をかけてきた人間は受話器を取った者の名前を尋ねているのでなく、その家の主人な のか、子供なのか、女中や下男なのか、そういう相手の立場を尋ねているのがその行為の 本質ではないかとわたしは考える。その返事としてもちろん名前を言ってもよいが、それ は名前で自分の身分や立場が相手に分かる場合の対応だ。もちろん身分・職業・肩書など、 電話を取った者が何者であるのかをかけてきた者に推測できるヒントでありさえすれば、 その問答はピント外れになっていないだろう。インドネシア人というのは、見知らぬ人間 あるいは行きずりの人間に対して、尋ねられてもいない自分の本名をそう簡単に名乗らな い傾向を?持っているのも確かだから。[ 続く ]