「地名バニュワギの由来(1)」(2018年10月15日)

ジャワ語でバニュ(banyu)は水、ワギ(wangi)はインドネシア語と同じで香りを意味する。
つまりバニュワギとは良い香りのする水という意味だ。この地名ができた由来を物語る話
がある。

昔、ジャワ島東端の地をプラブ・スラクロモという名の王が支配していた。王の右腕とな
って采配を振るったのは宰相シドペッソだった。頭脳鋭敏・勇猛果敢・眉目秀麗で、誰も
が一目置く人物だった。宰相の妻スリタンジュンも希代の美女で、心優しく、優美な立ち
居振る舞いに、ふたりは似合いの夫婦と国中に噂された。ところが、横恋慕が起こった。

王がスリタンジュンを自分の後宮に置いて愛玩したいと思い始めたのだ。既に人妻である
スリタンジュンをその気にさせるためには、未亡人にさせて救いの手を差し伸べる方法が
民や王宮のすべてを納得させる最善の道だと狡猾な王は考えた。

王はシドペッソを呼び、常人にはとても達成できない任務を与えた。任務の内容にはいく
つかのバリエーションがあり、そのひとつは不老不死の木の実を王のために探して持ち帰
れというストーリーで、不老不死の木は守護神がついており、人間が横取りすることを許
さず、おまけにその森には毒の木が多数生えていて、毒の木が発する空気に触れるだけで
人間は死ぬという話になっている。


ともあれ、何らかのミッションインポシブルを与えられたシドペッソは従者を連れて屋敷
を後にした。そのとき愛する妻が身ごもっていることにスリタンジュン自身がまだ気付い
ていなかったのだ。

長い月日が経過し、夫が無事に戻るのを貞節な妻は毎日祈りながらひたすら待った。王は
スリタンジュンが出産を終えるまで、忍耐を重ねた。そして赤児が生まれ、赤児の世話を
しているスリタンジュンをある日、王自身が慰めに訪れた。

四方山話のあと、王は真意を切り出した。「お前の夫はもう旅の果てに亡くなってしまっ
たのだよ。帰ってこない人間をいつまで待っていても仕方がない。赤児を抱えて苦しい暮
らしに落ちることはない。わしがお前の面倒を見てやるから、赤児を連れてわしのところ
に来い。」
[ 続く ]