「地名バニュワギの由来(2)」(2018年10月16日) 思いを果たそうとしてスリタンジュンの身体をつかんだ王を、スリタンジュンはきっぱり と拒否した。夫が亡くなった証拠はどこにもない。「あのひとは必ず戻ってきます。人妻 のわたしに無体なことをなさるなら、大声を立てますよ。」 王の心に憎悪と怨恨が刻まれた。 一年が過ぎ、二年目も終わろうとするころ、見すぼらしい姿の旅人が王宮の表門に近付い てきた。衛兵が旅人を誰何する。旅人はぽつりと言った。 「お前たち、わたしを忘れたかね?」 「あっ、これは宰相閣下だ!」 表門に歓呼のどよめきが起こり、中からも王宮のひとびとが走り出てきた。苦い顔をした のは王ただひとりだった。 王はシドペッソを謁見し、任務の成果を称賛した。そして謁見の間を出て別室に入り、シ ドペッソとふたりだけで秘密の話をした。 「お前はもう自分の屋敷に寄って来たのか?」 「それは王様からの任務を果たしたあとのことです。」 「いつもながらの忠勤には感じ入る。実はほかでもない、お前の妻の話だ。」 夫が不在の間に起こった妻のふしだらな行状を淡々とした口調で王はシドペッソに物語っ た。スリタンジュンへの怨恨を胸の奥底に隠しながら。 最初は唖然とし、しかしいつまでも半信半疑が溶けないシドペッソに王は決定打を放った。 「その証拠に、お前の家にはお前の妻が産んだ赤児がいるぞ。」 王の虚偽話に呑まれてしまったシドペッソは、わが家への道を急いだ。 屋敷の門衛があげた「宰相閣下のお帰り!」という弾んだ声に、スリタンジュンは夫を迎 えに表に出たが、夫の顔は怒りに満ちた鬼と化していた。 シドペッソはスリタンジュンが産んだ赤児を探し、その子を取り上げて地面に叩きつけよ うとした。妻が悲鳴をあげた。 「何をなさるの?それはあなたの子ですよ。」 「この姦婦が何を言うか?このわたしを口先ひとつで騙せると思っているのか?お前の不 実不倫は死をもって償わなければならない。お前は許されないのだ。」 [ 続く ]