「郵便と言語」(2018年10月26日)

インドネシアの郵便法はオランダ時代の郵便法"POSTORDONNANTIE 1935"をほとんど
そのままの内容でインドネシア共和国の法体系の中に持ち込んだ1954年法律第76号
(UNDANG-UNDANG NO. 76 TAHUN 1954)を嚆矢とする。その後何回か改正されて、現
在有効な郵便法は2009年法律第38号(UNDANG-UNDANG REPUBLIK INDONESIA 
NOMOR 38 TAHUN 2009 TENTANG POS) になっている。

国際郵便に関しては制度の発足に関連してフランス語が標準語の地位に置かれており、今
や世界共通語になった英語との二本立てがどこの国でも一般的だ。しかしインドネシアの
場合は少し事情が異なっている。

元来は国内郵便に国内の公用語や共通語を使い、国際郵便には英語とフランス語という扱
いでよいはずのものが、インドネシアでは複雑になった。


共和国独立後間もない1946年7月18日に国防評議会が郵便・電報・電話に関する評
議会規則第7号を制定し、大統領のスカルノがサインした。国防評議会というのは大統領
の諮問機関である。それとは別に国家中央委員会が国民を代表する立法機関として作られ
てはいたものの、それが十分な機能を開始するまでの間、評議会が緊急問題を処理し、重
要な事項を決定していた。

その評議会規則では、第三条に使用できる言語が定められた。それによれば、インドネシ
ア語、インドネシアの地方語、英語、フランス語で、表記はラテン文字を使わなければな
らないことになっている。その説明によれば、漢字とウルドゥ文字は郵便業務監督者の中
で読める人間がきわめて少ないため、その文字の使用を禁じると述べられている。


ところが政府宗教省はアラブ語とアラブ文字を許可するよう要求した。業務監督者の中に
読める者が少ない点は、同省がバックアップするとまで言い出すしまつだ。法規を執行す
るべき政府部内で不満が噴出すれば、手直しを行わざるを得ない。

1947年6月20日、国防評議会は評議会規則第31号を出して内容を修正し、評議会
副議長アミル・シャリフディンがサインした。追加された言語は中国語の「国語」、ウル
ドゥ語、アラブ語で、文字もジャワ文字・中国文字・アラブ文字の使用が許可された。但
し旧支配者の言語であるオランダ語は徹底的に排除された。「国民の間に本当にオランダ
語を使って文通する階層はもういないのであり、それゆえにオランダ語の使用は禁止され
る」と説明され、航空郵便封筒の表にAir MailやPar Avionの文字はあっても、Luchtpost
はあってならないものとされた。

独立宣言をしたインドネシア共和国を再植民地化するため、もどってきたNICAが武力
を使って武装叛乱者を平定しようとしていた時期だけに、いささか感情的なこの仕打ちも、
わからぬものでもない。

使用言語の条項はオランダ時代から共和国時代を通して、郵便法の中に置かれていない。
大臣規則がそれを定めているのだが、さすがに名指しでどの国の言葉は良くて、どこはダ
メだ、というようなことは書かれていない。国民が読める言語と文字を使えというのが決
まりとされ、当たり前で具体性のない内容になっている。