「スマホより低価値な生命」(2018年10月26日)

デポッ市サワガン郡チナンカのチプタッ川沿いの藪の中に少年の死体が横たわっているの
を、家畜飼料の草を刈りに来た住民が発見した。2018年10月6日のことだ。少年は
中学校制服ズボンを履いており、身元の割り出しは比較的迅速に進んだ。

死体には、腕・首・胸・腹・背のあちこちに刃物傷があり、中でも首を切られたことによ
る出血多量が死因と検死報告は判定しているが、更に加えて鈍器で頭蓋骨が割られるとい
うご丁寧な殺害方法が使われ、まるで完全主義者のような殺害者が確実に被害者を殺そう
とした印象が遺された。


警察の迅速な捜査で10月7日22時ごろ、南ジャカルタ市チプテに潜伏していた19歳
の青年が容疑者として逮捕された。この青年は14歳の被害者少年と同じチナンカ在住で、
おまけに親族関係にあり、互いに見知っている関係だったのである。

犯人逮捕の決め手になったのは、被害者が最近買った新しいスマホがなくなっていたこと
で、父親が電話したとき受信音は鳴っていたが誰も出なかったそうだ。そのシャオミスマ
ホを持っていたことから、この青年が犯人と確定された。犯行時に着ていた血痕だらけの
衣服も発見されている。

犯人は自宅にあった台所包丁を持ち出して犯行を行っており、計画性の高い行動であった
ことが明白に示されている。犯人は普段から駐車番や建設労務者をして得た金でナルコバ
を買っている常用者で、スマホ購入に回す金などなく、もっとも手っ取り早い方法でスマ
ホを手に入れるやり方を選んだということのようだ。


インドネシア文化にいまだ強く残されている人命軽視思想に「邪魔者は殺せ」の暴力支配
様式が合体した事件が今回のものだったにちがいない。

犯罪者たちがインドネシア警察をなめている様子は昔からさまざまな事件の端々に観察さ
れていたことではあるが、今回の事件も24時間以内に犯人が逮捕されており、インドネ
シア警察の能力は疑う余地があるまい。であるなら、被害者を殺そうが、殺すまいが、行
き着くところは似たようなものになるはずで、それをあえて殺す選択をかれらがするとこ
ろに、わたしはインドネシアの文化的価値観を感じざるをえない。それが上述の人命軽視
と、かれらの脳髄に刻み込まれている殺す行為における殺害者の優越性という価値観では
ないかとわたしは見ている。