「インドネシアの度量衡(前)」(2018年11月15日)

デノミを先取りして千ルピアの単位をKで表示する店が増えている。特に空港内ではその
傾向がひしひしと伝わってくる。Kとはもちろんキロで、ギリシャ語のキロは千を意味し
ている。

ただしギリシャ語のキロはメトロやグラモなど長さや重さの単位と結合するときの形であ
り、単体で数字の千を意味するときはキラとなっているから、だれかの言うように「人参
を1キロ買う。」とギリシャのパサルで言ったら、人参を1千本くれるから、言葉は正し
く使わなければいけない、というようなことにはなりそうにない。

それがゆえかどうかわからないが、世界中の人間がキログラムやキロメートルと言わずに
キロだけに省略しているのも、人間の本性をそこに見るようで面白い。


インドネシアの主婦がパサルで一般に使っている重さの単位にオンスonsがある。子音語
尾のsは発音されないからオンとだけ聞こえるのだが、スキロドゥアオンsekilo dua ons
というのは1キロ2百グラムのことだ。百グラムをオンスと呼ぶのはオランダに由来する
もので、日本にも最初はオランダ人がそれを持ち込んだらしいが、いつの間にやらヤード
ポンド法の複雑怪奇なounceに取って代わられたにちがいない。インドネシアのオンスを
知ったわたしには、日本民族がまるで自分で自分の首を絞めているように感じられるのだ
が。

公式度量衡に関する1981年インドネシア共和国法律第2号は、メートルやグラムを国
の基本単位とすることを定めている。だから全国の道路にはキロメートルを単位とする道
標が置かれていてKm75とかKm143といった地点呼称が行われている。ところが奇
妙なことに、パプア州ミミカ県のフリーポートが経営する鉱山地方の道路にはマイル表示
の道標が置かれていて、ひとびと(ジャカルタのインドネシア人報道関係者まで含めて)
はそれに従ってMil71などと呼んでいる。フリーポートが人里離れたパプアの奥地に、い
かに強権な城下町を築いていたかを示す象徴をそこに見るようだ。[ 続く ]