「性欲を殺ぐ文明(1)」(2018年11月28日) インドネシアで妊娠比率が低下し、性交頻度が減少しているという推測が行政関係者の間 に広がっていることは「性的不満が増加」(2018年11月5日)の記事で報道されて いる。それを裏付ける証言には事欠かない。 西ジャワ州ボゴールの自宅から毎日ジャカルタの職場に通勤しているダヤさん(女性39 歳)は、会社で8時間働いたあと帰宅するときにクタクタの疲労感に包まれている。それ もそのはず、オートバイとコミュータ電車の通勤で、毎日往復5時間が費やされているの だから。家を出るのは夜明け前、帰宅はとっぷりと陽が落ちてから。家に帰れば世間の他 の主婦たちと同じ仕事が待ち構えている。炊事や掃除、そして子供の宿題も見てやらなけ ればならない。愛を感じる時への希求が休養への渇望の中に沈潜していくのも、自然の摂 理だろう。 バンドン在住のフェティさん(女性40歳)は、出産から一年半くらいの間、夫とのセッ クス意欲は最小限のレベルに落ち込んだ、と述懐する。子育て、パートタイマーの仕事、 家庭内の世話・・・セックスの欲望は火が消えたようになっていた。「子供たちが大きく なってから、やっと復活が訪れました。」とフェティさんは物語る。しかし夫は別の町に 単身赴任しており、戻って来るのはたいてい週末だけ。夫婦の交わりはひと月に4〜6回 くらいだ、とかの女は語っている。 勤めの負担・家庭内の世話・通勤のストレス・夫の生活サイクル・ましてや単身赴任。現 代インドネシアのアーバンミドルクラスを洗っているそのライフスタイルが夫婦生活にお けるセックスのクオリティを劣化させていることは疑うべきもない。 性欲〜性交〜妊娠〜出産という生物に共通の生理サイクルが人類に活力と進化と、その結 果としての進歩繁栄をもたらしてきたことは言うまでもない。ところが生理サイクルに異 変が起こったとき、少子化〜老齢化〜活力喪失〜衰亡という危機的状況に向かって人間は 足を踏み出すことになる。 その現象はあまたの先進国にはるか昔から出現していることがらだ。ジーン・トゥエンゲ と友人たちによる2017年の研究は、米国人の性交頻度が1990年代から2010年 代までの間に15%低下したと述べている。月に5.2回だったものが、二十年間で4. 4回に減ったのだ。[ 続く ]