「性欲を殺ぐ文明(終)」(2018年11月30日)

ところが現代人はセックスを科学分析の対象にし始め、得られた知識をセックスのハイク
オリティ化に向けて注ぎ込むようになった。それは男女間の性行為を試行と観察の対象に
変えてしまい、かえって緊張とストレスを発生させ、性交意欲を減退させる面をもたらし
た。セックスはテクニカルなことがらと位置付けられ、快楽は本質の座から滑り落ちて行
った。

しかし人類のセックス意欲減退は、現代人のライフスタイルがもたらしている精神的負担
にその責を帰すのがもっとも順当なようだ。昔の世代に比べて現在の世代がより大きな精
神的負担を抱いていることで、セックスの意欲も満足も弱く軽いものに変化しているので
はないだろうか。

インターネットの普及が社会構成員のセックス活動を妨害しているかもしれない。ポルノ
グラフィやソスメドが社会構成員の結婚と結婚生活の中にある性交への希求を弱めている
可能性は指摘されているところだ。


とはいえ、当初に例を引いたダヤさんやフェティさんのような生活スタイルによる疲労が
セックス意欲を減退させているという結論には待ったがかけられている。1998年のJ
Sハイド氏と友人たちのセックス意欲・活動状況・満足度に関する研究では、主婦と勤め
人女性の間に差異は見られなかったし、トゥエンゲ氏と友人たちの2015年の研究でも、
労働負担のより大きい女性の性交頻度がより高かったことが報告されている。

とは言っても、労働内容がひどくてストレスを募らせる環境にあるなら、無職の者よりも
精神的負担が大きくなるのは否定しようがない。エヴァン・アトランティス氏と友人たち
は2012年の報告で、抑うつ症がセックス意欲を減退させ、性機能障害のリスクを高め
ることを指摘している。ストレスはホルモン分泌を変化させ、肉体とカップルに対するネ
ガティブはイメージを形成するのである。

セックスに対してよりオープンであるミレニアル世代が先輩世代に比べてセックス意欲は
控えめになっているというパラドックスは、かれらのストレスに対する抵抗力に関係して
いるようだ。かれらは仕事・住居・気候変動・共同体と社会生活の空間的劣化など、従来
の世代にくらべてはるかに大きなストレスにさらされているのである。

性交頻度の低下は社会的な精神重圧を反映していると見て間違いあるまい。セックス意欲
の衰えは現代人の精神的負担の極限状況を映し出している鏡なのである。この状況は憂鬱
社会を作り出し、生産性を低下させ、保健負担を増加させる。そして行き着くところは民
衆の幸福と福祉の衰退である。国と国民が一丸となって追求しているものがそれだという
のに。[ 完 ]