「構造的なLCCブーム(後)」(2018年12月13日)

インドネシア国内は少々様相が異なっている。元々はパイオニア空運と呼ばれる小規模航
空会社が政府の補助を受けながら小型機を飛ばしていただけの辺鄙な空港が、現政権の国
内地方都市コネクティビティ向上政策によって空港拡張が続々と起こり、経済成長がそれ
に追い打ちをかけて国内空運利用希望者をどんどん作り出して行った。

だが市場が未成熟な段階でフルサービス航空の運航は経済性に問題が生じる。身軽なLC
Cがその市場チャンスを刈り取って行ったのは言うまでもないことだ。その場面に登場し
ているLCCというのは、選択肢のない、あるいはせいぜいLCC同士のバッティングと
いう、寡占状況下のビジネスという性格を帯びている。要するに、乗客にとって他に選択
の余地がないありさまになっているのだ。

スラバヤ出身でバリッパパンの鉱山会社に勤める女性は、4週間勤務のあと1週間の休暇
が与えられる就労契約を利用して、休暇のたびに実家に帰る。交通費は会社負担で、フル
サービスフライトの利用が認められているというのに、スラバヤ〜バリッパパンの直行運
航はLCCしかない。他の大都市を経由してフルサービスを使えば、契約条件に合致しな
くなるのだ。


2015年にアセアン域内のオープンスカイ条約が締結された。インドネシア政府はジャ
カルタ・スラバヤ・メダン・バリ・マカッサルの5空港をオープンスカイ対象空港に指定
した。もちろん2国間協定で地方空港が近隣外国空港との間に相互乗り入れを行っている
ところもいくつかある。

運輸大臣によれば、現在のところこのオープンスカイ条約は他のアセアン加盟国の利用状
況のほうが目立ち、インドネシアの航空会社がその条約を活用して他国に航路を開設する
例はあまりないそうだ。

たとえばフィリピン。マニラとインドネシアのそれら5空港を結ぶ航路は、ほとんどセブ
パシフィック航空で占められており、インドネシアの航空会社はちらほら見えるだけ。観
光客の動きは圧倒的にフィリピンからが多く、インドネシアからは少ない。インドネシア
の航空会社にとっては、そこに手を伸ばすよりも、国内線に手をかけるほうが経済性も将
来性もはるかに意義が大きいということが明白だからだ。インドネシアLCCの国際線進
出も着実に進んでいるが、周到に計算されたビジネス戦略の上に載っていることは言うま
でもあるまい。[ 完 ]