「カキリマ(1)」(2018年12月24日)

インドネシア語のカキリマ(kaki lima)の語義に、「道端に屋台などを置いて食べ物等の販
売行為を行うこと、またその行為者」とは記されていない。国語センターのKBBIでは:
1.家屋と家屋を結ぶ屋根で覆われた床
2.道路に面した商店の表のベランダ
3.道路脇の床部分
と説明されている。

インドネシアでは、道端に屋台などを置いて食べ物等の販売行為を行う者をプダガンカキ
リマ(Pedagang Kaki Lima 略称PKL)と言う。つまりカキリマで商売を行う者の意味だ。
そしてPKLのプダガンが省略されてカキリマという表現が慣用化した結果が現在のカキ
リマの語義だということであるにちがいない。

そのカキリマ商人をどうしてカキリマと言うのかについて、次のような説が言われてきた。

カキリマ商人の屋台はたいていが手押しの二輪屋台になっており、停止した時に屋台を水
平に保つために手押し棒側もしくは反対側の本体下部につっかい棒がひとつついている。
だから屋台そのものは三本足であり、それを押して歩く男の足が二本加わって五本足にな
るからカキリマだ。

その屋台はグロバッ(gerobak)というインドネシア語名称で、PKLがグロバッを使うこ
とが一般化したのは1980年代であり、それ以前(古くは植民地時代にまで遡る)のP
KLは商品や商売道具を担いで移動していた。つまり昔は二本足だったにもかかわらず
カキリマ商人と呼ばれていたのである。


カキリマというのは本来5フィートを意味していた。シンガポールへ行くと、five-foot 
wayという言葉を見聞することができる。一説では、スタンフォード・ラフルズがジャワ
統治時代に、町中の道路に面した建物の並びの前に歩道を設けさせ、その上を屋根で覆
って歩行者の通行に便宜をはかったそうだ。屋根で覆うと言っても、実際には建物の二
階が歩道の上まで張り出している姿の方が普通だろう。

そのときの規定が、歩道は路面から1フット高くし、幅は5フィートに統一させるものだ
った。だからカキリマというのは基本的に歩道であるという理解になるのだが、一方、店
舗の表のベランダと言うか、空きスペースで歩道も含めた部分は、通常開店時間中は店の
商品を並べ、閉店するとき商品を店舗のシャッターの内側にしまい込む、という使われ方
をしている場所もある。そのような場所はエンペル(emper)という言葉で表される。現実
にはエンペルがカキリマまで含んだ使われ方をしているから、エンペルという言葉よりも
カキリマという言葉で表現されるほうが多いようだ。中央ジャカルタ市プチェノガン(Pe-
cenongan)通りのシーフード店やジョグジャカルタのマリオボロ通りはエンペルと呼ばれ
る方がふさわしいようにわたしには思われる。[ 続く ]