「大統領選挙詐欺」(2019年02月06日)

東ジャカルタ市チパユン住民ヘル氏53歳が2019年1月24日、首都警察に詐欺被害
の届出を行った。ヘル氏の口述によれば、18年12月にかれがラワマグンのモスクを訪
れたとき、ひとりの男がアプローチしてきたそうだ。

男の話によれば、イェニー・ワヒッ財団が草の根事業者に1千5百万ルピアの融資を行っ
ており、もしジョコウィ大統領が再選されればその資金は返済不要となる。男はそう語っ
てヘル氏が自宅で営んでいる雑貨ワルンの写真を自分のスマートフォンで見せた。

自分が有資格融資対象候補者として選択済みであるという印象をヘル氏に抱かせるための
手口がそれだったようで、ヘル氏はその話に乗った。すると男は、融資金は12月末に下
りるから、それまでに事務管理料金50〜65万ルピアを払ってもらわなきゃならん、と
言う。で、男はヘルさんの家を訪れて家族証明書のコピーと管理料金を徴収し、そのあと
は例によって、相手とのコンタクトがふっつり途絶える。

首都警察は捜査を開始して、19年1月25日夜に犯人をプロガドン地区にある自宅で逮
捕した。39歳の犯人はすべての犯行をただひとりで行っていた。犯人は14人の被害者
からおよそ1千万ルピアの金を集め、自分の生活費に使っていた。

犯人がダシに使った融資財団はイェニー・ワヒッだけでなくハリー・タヌスディビヨ財団
もあった。犯人はワルンなどのミクロ事業を営んでいる庶民に狙いを定め、事業の様子な
どを下調べした上で被害者にアプローチをかけるという、なかなかの知能的犯罪を行って
いた。ましてや、親現職大統領派著名人の財団が大統領再選のご祝儀に借金帳消しにして
くれるという、庶民に分かりやすいメカニズムと利得感を巧みに織り交ぜたストーリーは、
インドネシアの政治と民生の興味深い関わり合いを示していて、実に面白い。