「カイマナのジンベイザメ(後)」(2019年03月12日)

ところがその後、スシの行動がわからなくなってしまった。追跡電波が途絶えてしまった
にちがいない。発信機が汚れると、このようなことが起こる。CIの観察作業に協力して
いる地元のガイドダイバーの仕事の中に発信機の掃除も含まれており、折に触れて遭遇し
た個体にその仕事をしているのだが、どうやらスシはダイバーの行動半径外に出てしまっ
ているらしい。

発信機が送って来る情報によって、各個体の移動地点・水深・水温などのデータが蓄積さ
れた。そのデータ分析から、各個体はまったく独自に自分の動きを行っていることが判明
した。西パプアの海からアラフラ海・セラム海・バンダ海、中にはティモールレステやパ
プアニューギニアの海にまで遠征している者もいる。


もうひとつ発見された興味深い事実は、カイマナを根拠地にしているジンベイザメたちは
体長が3.5から7.5メートルで小さい身体であり、また雄雌比も23対1とたいへん
偏っていることだ。それはチュンドラワシ湾での状況とあまり違わない。

諸外国のデータと比較するなら、南大西洋のセントヘレナ島では体長が7.5〜11メー
トルで雄雌比は1対1、ガラパゴスのダーウィン島では体長が9〜13.5メートルで雄
雌比は1対10になっている。

その事実に対してCIインドネシアのプロジェクトマネージャーは、次のような仮説を考
えているとのことだ。つまり、カイマナやチュンドラワシはジンベイザメの子供が成長期
を過ごす育成域ではないだろうかというアイデアがそれである。一方、セントヘレナ島や
ダーウィン島は、生殖行動期に入ったジンベイザメが繁殖活動を行うエリアの可能性が高
い。


とはいえ、ジンベイザメの生態については、いまだにわかっていないことが多すぎる。ど
のように成長し、どのように老いて行くのか、どのように生殖を行い、どのように子育て
をするのか、それらは依然として霞の中に隠れている。1995年に台湾で妊娠中のメス
ジンベイザメが捕獲され、その体内から3百匹ほどの稚魚が見つかった。ジンベイザメも
卵胎生であり、体内で稚魚を育てているのは間違いがない。

ジンベイザメ観光はモルディブの重要な観光資源になっている。モルディブの観光収入9
50万米ドルは、ジンベイザメも大きい役割を担っているのである。観光産業を国家収入
の大きな柱のひとつにしようとしているインドネシアも、その方向性を十分に視野に入れ
ている。しかしカイマナがジンベイザメ観光の一拠点になるまでには、なされなければな
らない仕事が山積しているにちがいない。[ 完 ]