「呪術を裁くインドネシア共和国刑法典?(前)」(2019年03月20日)

現在インドネシア共和国で使われている刑法典は1915年に公布され、1918年1月
から施行が開始されたものだ。驚くなかれ、オランダ植民地時代の法律なのである。元々
のオランダ語Wetboek van Strafrecht voor Nederlandsch-IndieはKitab Undang-undang 
Hukum Pidana(略してKUHP)とインドネシア語に訳され、国内全土の法曹システム
の基盤を担っている。KUHPのプレセタンとしてKasi Uang Habis Perkaraというのが
人口に膾炙しているのは、インドネシア共和国時代になってから刑法犯罪がどのように扱
われていたかを想像させるものとして面白い。

だがプレセタンの方は日陰の部分であり、陽が当たってしまうと真面目に総力をあげて法
律を適用してくるから、なめた真似はしないのが無難だろう。

一世紀を経過して、時代の変化、そして何よりも植民地支配者の視点で作られた法律にナ
ショナリズムがあらがおうとするのは当然で、百年記念日を前にして改訂作業が続けられ
てきたのだが、さまざまな問題に対してさまざまな視点からさまざまな見解が投げかけら
れるために、行方がさまざまに乱れてまとまらない。いつまでたってもまとまらずに今日
現在に至っているのが実情だ。

その中の一要因として呪術犯罪がある。要するにブラックマジックだ。オランダ人が20
世紀になってから制定した法律の中に呪術犯罪があるというのは、これも「驚くなかれ」
に属す現象にように思うひとが出るにちがいない。これは単なる植民地事情として現地の
状況に合わせただけということなのだろうか?

現行法の呪術犯罪条文は第546条の中に次のように記されている。
超自然な力を持つ護符や物品を販売し、オファーし、引き渡し、分配し、販売もしくは分
配のためのストックを保持する者は誰であれ、刑法犯として三カ月の拘留および最高4,
500ルピアの罰金が科される。

上の条文は超自然の術を教える者、刑法犯罪を行っても自分は絶対安全なポジションにい
ることができるのを他人に信じさせる者にも適用される。

共和国政府が現行KUHPの改定案として用意した法案の中にも、呪術犯罪はしっかりと
取り込まれていた。法案第295条の条文は次のようになっている。
第一項
自分に超能力があることを他者に表明し、自分の行為によって第三者を病気・死亡・精神
的苦痛・肉体的苦痛に至らしめることを知らしめ、期待させ、助力をオファーし、助力を
与えた者は誰であれ、刑法犯として最長5年の入獄刑あるいは最高第4カテゴリーの罰金
が科される
第二項
第一項の刑法犯が経済的利益を目的にし、あるいは生計手段とし、あるいは習慣として行
う場合、刑罰は三分の一が追加される
[ 続く ]