「呪術を裁くインドネシア共和国刑法典?(後)」(2019年03月21日)

ブラックマジックを使って他者を不自然不可解な死、原因不明の病、突然の事業の大損失
といった災難に落とす行為をインドネシア人はsantet・sihir・pelet・guna-gunaなどと
呼ぶ。

2014年4月にコンパス紙R&Dが全国12大都市の17歳超住民798人から集めた
統計によれば、48.6%が現実社会にサンテッは存在していると答えている。そんなも
のは存在しないと確信を持って答えたひとは44.1%で、「信じる」派のほうが多かっ
た。

教育レベルによる偏差は予想外で、高校大学学歴者(学業中を含む)の「信じる」派は5
2.3%で平均値を上回る勢いになっていた。反対に中学以下の学歴者中の「信じる」派
は32.0%だった。


サンテッが依然として刑法典の中に登場するのは、世の中にその姿が存在しているからだ、
と刑法典改定案編成作業委員会長は述べている。

かつて東ジャワのある地方で、ウラマがサンテッを行ったとして、ブラックマジックを使
うウラマと疑われた多数の人間が暗殺される事件が起こった。特定宗教では、サンテッは
神に背く行為という烙印が捺されている。超自然の力は神のみが行使する権利を持ってい
るのであって、人間が神に頼らず、神でない存在の力を借りて超自然の行為を行うのは、
背神であり涜神であるというロジックだ。涜神の教徒は死でその罪をあがなわなければな
らない。

実定法を基盤に置く法治国家であるインドネシアで、宗教ジャスティスはあってならない
ことであり、そのようなことを起こさせないために刑法典にサンテッ条項が必要になるの
である、というのが委員会長の説明だった。

つまり改訂刑法典に呪術犯罪条項が出て来るのだが、それは呪術犯罪そのものを裁くため
でなく、超自然の力があると主張して他人に能力をオファーし、第三者を攻撃するという
反社会行為に対処するためのものなのだそうだ。この反社会行為はすなわち刑法犯罪であ
るという姿勢が執られている。
「サンテッを裁くためにはサンテッを立証しなければならないが、その困難さは想像に余
りあるだろう。そうでなくて犯罪をオファーするという人間の行為を立証することが法曹
従事者の要件であれば、困難さは克服できる。」

たとえば、ある人間を憎む者が相手をサンテッにかけようとして、超能力を持つドゥクン
を探す。自分はブラックマジックが使えるからその注文を受けよう、といずれかのドゥク
ンが表明すれば、そのドゥクンは刑法犯罪を犯したということになる。
「われわれの社会はいまだにサンテッの存在を信じ、しかも他人に災禍を与えるためにそ
れを使おうとする。存在するか否か、信じるか信じないか、というのが問題なのでなく、
他人に災禍を与えようとすることが社会における犯罪なのである。改定法が施行されたな
ら、法曹関係者はもちろんのこと、社会にもこの法律条文の意図を十分に理解させなけれ
ばならない。サンテッにアクセスしようとすることが犯罪になれば、サンテッそのものは
徐々に社会からその姿を消すようになるだろう。」インドネシア大学犯罪学者はそう語っ
て、呪術犯罪に対する見方を転換させるようアドバイスしている。[ 完 ]