「BABS(1)」(2019年04月09日)

大便を排泄することをインドネシア語では「ベーアーベー」と言う。Buang Air Besarと
いう三つの単語の頭字を並べたもので、「ブアンアイルブサール」と露骨に表現するのが
気恥ずかしいひとびと、特に若い女性たちの間では「ベーアーベー」という言葉の方がよ
く使われているようだ。便秘薬のTVコマーシャルを見ても、「ベーアーベー」の花盛り
になっている。

そして場所を選ばず、手当たり次第にどこででもベーアーベーを行うことをBuang Air 
Besar Sembarangan略してベーアーベーエスと言う。残念ながら、日本語でこれに該当す
る言葉が見つからない。

日本語で見つかるのはせいぜい野ぐそくらいで、野外で行われる排便という定義になって
いるのだが、野外には野原や屋外の意味がある。屋外とは家屋の外を意味し、庭の塀の裏
やら裏庭の倉庫脇の草葉の陰なども屋外だから、それと野ぐその語感が合致するのかどう
かわたしには少々疑問だ。

野ぐそという言葉には大自然との一体感や大自然に抱かれる抱擁感が強く付随している雰
囲気がその用法から感じられるため、わたしは野ぐそをBABSの訳語に使わないことに
した。BABSの語義は、定まったそのための場所でない所で手当たり次第好き勝手に行
うBABということなので、スンバラガンというインドネシア語に曳かれて、場所を問わ
ないでたらめ排便や無茶苦茶排便、あるいは非常識排便などという日本語も考えてみたが、
今ひとつすっきりしないためBABSをそのまま使うことにする。


バリ島のある村では、自宅のセプティックタンクがいっぱいになると、BABSが行われ
る。先祖伝来行われてきたことだから、元来BABS自体に抵抗がないようで、男も女も
ちょっと離れた藪や丈高い草地にひとりひとり入って行くのである。

どうしてそんなことになるのかと言えば、セプティックタンクの汲み取りに金を払わなけ
ればならないからだ。それを貧困に結びつける前に、そんなことに金を払うのかという価
値観の問題として見たほうが、本質に近付けるようにわたしには思える。だから居住民の
中には自宅の裏や塀のかげでBABSを行う者もいることをわたしは体験的に知っている。

その匂いが日によって大自然のすがすがしい大気の間に間に漂うから、どんな田舎へ行こ
うが大自然の持っている魅力はそこに人間がいるかぎり割引かれることになるのを覚悟し
ておくほうがよい。


昨今問題にされているBABSについて見てみると、スンバラガンつまりおざなりにされ
ている基準として用いられているのが、現代的な人間の排泄物処理システムであることが
分かる。そうなると古代から伝統的にそのための場所として使われてきた川や海の中とい
う常識も、BABSに該当してしまうのである。われわれは文明化というものの本質をこ
こにも見出すことになる。[ 続く ]