「迷い込んだ外人ツーリストが村興しに」(2019年04月18日)

インド系イギリス人ヴィジェイ・クマル・カンダンプリ氏がジョグジャカルタ市の西方お
よそ30キロにあるムノレ(Menoreh)山地へトレッキングに出かけたのは2012年のあ
る日のこと。ムノレ山地はクロンプロゴ県南海岸部からまっすぐ北に伸びて35キロほど
離れた北限の裾にボロブドゥル遺跡を擁している。

ところがヴィジェイ氏は道に迷ってしまい、山地北部のギリプルノ村に迷い込んでしまっ
た。ギリプルノ村から8キロほど北方にボロブドゥルがある。日はもう沈みかかっている。

村の中で困り果てているヴィジェイ氏に、村人のマルヤント氏が声をかけた。旅行者の窮
状を知ったマルヤント氏は「じゃあ、うちに泊まりなさい。」とヴィジェイ氏を誘った。
観光客で賑わうジョグジャ市やボロブドゥルをよそに、貧困に覆われたこの山間の村の状
況がマルヤント氏の温情と共にかれの心を打った。かれはギリプルノ村をたいそう気に入
り、その貧しさを克服するのにどうすればよいかを考え始めた。


この村の様子の中でかれが気付いたのはヤギの多さだった。村人はたいていヤギを家畜に
飼っていて、ギリプルノ村だけで6百頭にのぼる。豊富にあるヤギのミルクを目にしてか
れはそれでチーズを作るように提案した。賛同者が現れると、ヴィジェイ氏はかれらにチ
ーズの製法を指導したのである。ヤギのチーズは栄養価が高いし、牛乳から作るチーズよ
りも市価は高い。村中でこれを作って村の産物にしてはどうか?

かれは4カ月間ギリプルノ村に滞在し、妻を呼び寄せ、ふたりでチーズの生産から販売ま
で、村興しに協力した。そしてマグランにあるホテルが定期的に発注してくるようになっ
た。

しかし好事は長続きしないものだ。二年ほど続いた受注が止まってしまう。村人たちはな
すすべを知らなかった。今更またヴィジェイ氏に助けを求めるわけにも行かない。

だが、全国的なうねりが起こっている観光振興と村興し運動がギリプルノ村のチーズ作り
と接点を持った。国有事業体が民衆の経済活動育成に協力する習慣は何十年も前から作ら
れている。国有会社が持つ人材と知能を使って、民衆の経済活動を支援し、指導するので
ある。

マンディリ銀行がギリプルノ村のチーズ作りと販売を支援することになった。村長はいま、
村民総出のチーズ村を作り、ミニチーズ工場を設けて村の産物にするだけでなく、それを
観光資源として観光客を誘致するという大きな計画に向けて動こうとしている、と物語る。


観光ビジネスの話が出てきたのは、クロンプロゴ県に設けられた新ヨグヤカルタ国際空港
(NYIA)からボロブドゥル遺跡に向けて新たな観光道路を建設する計画が作られたか
らだ。

この道路にギリプルノ村に至る脇道を作ることで、ボロブドゥル観光客に別の観光スポッ
トを提供することができる。ギリプルノ村は今、村興しに沸いている。