「最低賃金決定方式を変更」(2019年05月22日) インドネシアの最低賃金は全国一律でなく、州別になっている。おまけに州内一律でもな く、州内最大行政区である県と市ごとに最低賃金が定められる。ならば州最低賃金は何の ために存在するのか? それは各県市が定める最低賃金額のミニマム規準を与えるためだ。県市は州最低賃金を下 回る金額を定めてはならないのである。 ジョコウィ政権が2015年に政令第78号を定めて最低賃金決定を一定の比率による算 数方式に変えるまで、最低賃金決定プロセスにおける事業者界と労働界の抗争は年中行事 だった。労働界が展開する賃上げ要求行動は就業中の工場に対するサボタージュからデモ 隊による一般道や自動車専用道の占拠といった社会経済上の損失を頻繁に発生させ、挙句 の果てに州県市行政首長との間での次回選挙におけるエレクタビリティに関わる裏取引へ と向かい、労使行政三者会議の結論を首長がねじまげて労働界に有利な金額に変えてしま うようなことまで起った。 事業者側にしてみれば、翌年の経営コストや事業利益計画が翌年度という期日が立ち上が るときに大番狂わせになる可能性を毎年毎年抱えることになる。この不確定性が国家経済 にとっての損失でないはずがない。 おまけに最低賃金協議会という儀式めいた活動が毎年後半繰り返され、事業運営における 効率と生産性にとっての邪魔者という感触すら持つ経営者もいる。事業者界にとって避け て通ることのできない関門ではあるものの、もっとスムースにスマートに潜り抜けること はできないのかという思いも付きまとっている。 2015年政令第78号は、それまで行われていた経済原理に密着していない最低賃金の 決定プロセスを単純な算数方式に変えてしまった。というのは、従来は労働界が労働者の 生存権を主張して生活費にこれだけ必要なのだという調査数字にもとづく要求を出し、事 業者側は安定した事業経営のために人件費として出せるのはこれだけだという数字を出し て対決し、インドネシアで言う御者の議論が続けられ、労働界が世の中に巻き起こす不穏 な諸事件を嫌った行政がその中を取り持つという形が決定プロセスの核構造をなしていた のだから。 翌年の最低賃金は、(前年9月から当年9月までの地元インフレ率+前年下半期から当年 上半期までのGDP成長率)を当年最低賃金に掛けたものを増加分とする、というのがそ の単純な算数に使われる計算式だ。 だが労働界はその政府決定を基本線で賛同しなかった。新方式が開始されたとき、前年の 最低賃金が実質的に生活コストをカバーし得ていた県市はよいにしても、全国一律でそう なっていたわけでもない。最低生活需要と称する生活コスト調査結果の数字が実業界の支 払い能力を超えているとして値切られていた県市も少なくなかったのだから。出発点から して不平等がつきまとっていたと言うことができるだろう。 労働界は労使の代表者会議で話し合いが行われることを民主主義の一形態として希望して おり、頭ごなしの計算式を受け入れることが心情として納得しきれない様子だ。そのくす ぶり続けている不満にジョコウィ大統領が手を差し伸べた。2015年政令第78号の見 直しを行えという指示を閣僚に発したのである。ただし労使のいずれにも、その改正によ って損失が発生しないようにせよ、という注意書きがつけられた。 2020年の最低賃金決定プロセスがどのような形に変更されるのか、あるいは決定打が 出ないまま現状が継続するのか、目の放せないところである。