「トラジャのパッピオン」(2019年06月04日)

竹筒におかずを詰めて調理する方法も、もちろん行われている。南スラウェシ州トラジャ
地方の料理パッピオンpa'piongもそのひとつ。これも祝祭の場に欠かせない食べ物のひと
つだ。

パッピオンは直径8〜10センチ、長さ30〜40センチの竹筒の中を洗ってそのまま具
や調味料を詰め込み、例によって火の周囲に立てた支え木に立てかけて数時間焙る。出来
上がれば、竹を割ってそのままお召し上がりとなる。

使われる肉は豚がもっとも一般的なのだが、鶏や水牛が使われることもある。肉を取った
動物の血も混ぜられる。肉とブルナンコと呼ばれる野菜や、時にはバナナの若い幹も加え
られ、ショウガ・ニンニク・レモングラス・ヤシの果肉を削ったものから成るブンブを一
緒に混ぜてから竹に入りやすい大きさに切り、筒の中に詰め込むのである。

竹の底は節があるから大丈夫なのだが、上端開口部はバナナの葉でふたをしなければなら
ない。こうして火あぶりが始まると、竹筒は頻繁に回転させなければ煮え具合が半端にな
ってしまう。二三時間かければほぼ全体に火が回り、食べごろとなる。中身の水分がなく
なってくると竹筒の外側が黒くなるから、ひとつの目安になるだろう。

トラジャではパッピオンにサンバルを添えて食べるのが普通だ。トゥトゥッラダtutu' lada
と呼ばれるトラジャ名物サンバルは、チャベラウィッ・トマト・ニンニクを粗くすりつぶ
し合わせて作る。この辛さはジャワのサンバルの比でなく、それを口にするとたいていの
ひとはマナド料理の辛さを思い浮かべるらしい。これをサンバルセタンsambal setanと呼
んだ人もあるくらいだ。


トラジャでは、葬礼の儀式があると、昼に大勢のひとびとが集まって、トゥアッtuakを酌
み交わしながら飯とパッピオンを食べる。トゥアッはアレンヤシの汁を発酵させた酒で、
外国人観光客はこれをトラジャビールあるいはトラジャファームワインなどと命名してい
るが、ヤシ酒だ。

観光客がタナトラジャを訪れたときにパッピオンを食べて見たいと思うなら、レストラン
に前もって注文しておかなければならないというのが昔の常識だったそうだ。今どうなっ
ているのかわたしにはわからないが、祭礼の日の晴れの食べ物だから平常時の暮らしにそ
れを食べるひとはいないということにちがいない。

この幻の美食ははたして商業化するだろうか?あるいは異種族異文化のわれわれが見よう
見まねで作ってみるほうが早いのだろうか?