「揚げ物大好き民族(前)」(2019年07月03日)

インドネシア語で揚げ物のことをゴレガンgorenganと言う。gorengに接尾辞の-anが付け
られたものだ。分節法はgo-reng-anとなるが、発音は第二音節が/re/と/ng/に分裂し、
/ng/と/an/が連結して[ngan]となる。[go-re-ngan]が正確な発音だ。

ゴレンgorengの言語的考察はかつて「ナシゴレン」の記事で行ったことがある。ところが
その後、インドネシア人はdeep-fryに対応するインドネシア語を作ったようだ。それは
goreng rendam。

その結果、油を使う調理法はgorengで、その細分類として少量の油で炒めるのをtumis、
大量の油の中に食材を浸すのをgoreng rendamと称することができるようになった。従来
のように、油を使う調理法全般がgorengで、同時に大量の油に浸す方法もgorengであり、
少量の油で炒めるのだけがtumisと区別されるあり方よりは、はるかに科学的な姿勢だと
言えよう。

ちなみに「ナシゴレン」は次のページでご覧いただけます。
http://indojoho.ciao.jp/koreg/knasgor.html


紀元前1千2百年ごろのエジプトでは既に、熱した大量の油に食材を入れて調理する方法
が行われていた由で、そこから世界中に広まって行ったと考えられている。日本にも、古
い時代に中国から伝わってきており、ポルトガル人による天ぷら料理云々とは関係がない。

日本の文化宗主国である中国に「炸」料理法がいつごろから使われるようになっていたか、
そして知っていたが経済的な理由で世間一般に普及していなかった日本の状況が、天ぷら
が揚げ物の事始めのような誤解を流布させる原因になったように思われる。


ゴレガン大好きインドネシア民族は、華人からゴレンの調理法を学んだというのが定説に
なっている。ポルトガル人が天ぷらをインドネシア民族に教えることはなかったが、ポル
トガル人がマラッカを征服してインドネシアの島々に支配の手を広げ始めるころには、イ
ンドネシア人は既にゴレガンを楽しんでいたようだ。

ポルトガル人より先に移住してきた華南地方の住民たちは、さまざまな調理法や料理をイ
ンドネシア人に伝えた。ミー、バソ、タフ、タウチョ、バパウ、バチャンなど、実に多彩
なメニューがインドネシア民族の食生活を豊かにしている。

インドネシア人のゴレガン好きは、たとえば夕方になれば街中の至る所にゴレガン屋台が
出現し、どんな経歴の油かわからないものを満たした鍋にバナナや芋や豆腐やさまざまな
食材が投げ込まれ、買いに来た客に小さく切った新聞紙でそのまま包んで渡しているあり
さまを見れば、よくわかる。中にはビニール袋を油の中に溶かし込み、揚がった食材がき
らめきを増すようにして客を誘う作り売り屋台もある。インドネシア人の寿命の一部はか
れらの手に握られているにちがいないようだ。[ 続く ]