「ロムサ(2)」(2019年07月10日)

一方、インドネシア語ウィキにはRomushaという項目があり、1942年から1945年
までの日本占領期に強制労働を強いられたインドネシア人の呼称と説明されている。もう
少し引用すると;
労務者にされたインドネシア人の大半は農民で、1943年10月から日本軍は農民を労
務者にする義務付けを行った。労務者はインドネシアの各地から東南アジアの他の国まで
派遣されて労働に従事した。労務者にされたインドネシア国民の数は4百万から1千万人
と推定されている。

元々の日本語の語義は肉体労働者という意味でしかなかった労務者という言葉に歴史が培
った意味合いを重ね合わせてやると、日本軍の強制労働の被害者という意味に変化して行
くのである。


ロームシャという日本語がどうしてromusaというインドネシア語になったのか?日本軍政
期のインドネシア語標準綴り、つまり正書法から説明する必要がありそうだ。

日本軍政はオランダのにおいのするものを極力排斥したものの、正書法を変えることはし
なかった。そのためにオランダ植民地時代に使われていた正書法がそのまま残されたので
ある。当時の正書法は原住民の言語をアルファベットで表記するためにオランダ人が用意
したものであり、オランダ語の音韻表記に沿ったものになっている。

ヤ行の音を示す場合には/j/が使われた。
ヤ行 ja-ji-joe-je-jo ⇒y
チャ行 tja-tji-tjoe-tje-tjo ⇒c
シャ行 sja-sji-sjoe-sje-sjo ⇒sy
ジャ行 dja-dji-djoe-dje-djo ⇒j
現在の正書法は ⇒ の文字が使われている。
だからその当時、ジャワはDjawa、ジャカルタはDjakarta、スラバヤはSoerabaja、ヨグヤ
カルタはJogjakartaと書かれた。

日本軍政では、地名・官職名・組織名などを日本語に変える日本化が推進されたが、それ
はアルファベットを使って行わなければならない。日本語のローマ字はya-cha-sha-jaが使
われることが多く、日本語の単語をそれらのローマ字表記にしてそのまま原住民に読ませ
ると、今度は発音が異なって来る。結局、日本式を原住民に押し付けるひとと、現地の正
書法に合わせようとするひとが出て表記法は一貫性を失った。日本人の発音を聞いた新聞
記者が記事を書いたら、綴りがどうなるかは想像にあまりあるだろう。
たとえばPETAの階級名称では中団長がTjudantjo、小団長はSjodantjoと書かれる方が多く
なったが、義勇軍はGiyuugunと日本式に書かれているものもある。

ロームシャという単語はどうしたことか、romushaという綴りが世の中にあふれた。日本
人の発音を耳にする機会を持てた人間はロームシャと発音しただろうが、文字でしか接し
なかった人間にそれを期待するのは無理だ。[ 続く ]