「バリ文化の奥底に叡知を見る」(2019年07月16日)

水を敬い大切にするバリ社会の風習は今からおよそ1千年くらい前に始められ、絶えるこ
となく現代にまで生き続けている。トゥカッパクリサンTukad Pakerisanの岸壁に設けら
れたチャンディ群や瞑想場は、遠い昔から水資源を尊ぶことを教えて来た風習の存在を示
す具体例だ。

1049年から1077年まで在位したマラカタ王が建造させたチャンディグヌンカウィ
は水利源であると同時に瞑想場でもあり、一千年もの間、民衆が維持して来た保存の意欲
に支えられてこのチャンディは今も往時の姿を映し出している。

地元民のスバッsubakに水を分配するための水源としての広い池を持っているタマンアユ
ン寺院Pura Taman Ayunも同じだ。その池は16世紀に既に機能していたのである。

池の湧水源があるプラダルムシヌンガルPura Dalem Sinunggalでは、土壌が緩んで水源に
悪影響を及ぼすことを防ぐために民衆は植林した。ひとびとは木々を尊崇して幹に布を巻
いた。自然環境が維持されて人間の暮らしに恩恵をもたらすよう、ひとびとは祈りをこめ
て大自然を敬った。そこに作られたプラやチャンディを通して。


プラやチャンディが建てられたのは、自然環境への尊崇を民衆に実践させるためだったと
言うことができるだろう。「そこにプラやチャンディがなければ、民衆は容易に自然環境
の形を変えたり、破壊したりしただろう。それらが建てられたのは自然環境の破壊を避け
るためだったのである。」考古学者はそうコメントしている。

しかし今、バリ島内のあちこちで水資源経営に関するローカルウイズダムに劣化が起こっ
ている。経済面での地元資本の弱さと保存コンセプトを持たない島外からやってきた資本
家が持込むビジネス観念の影響だ。

いくつかの地域では水田が姿を消しつつあり、スバッシステムは昔通りの内容で運営され
なくなったものの、水資源経営は民衆の間でイデオロギーに変質している。


ボゴール農大水文学教官はバリの水資源経営について、バリ社会は水に関する独立したコ
ンセプトを打ち立てており、インドネシアでもっともすぐれたローカルウイズダムになっ
ている、と述べている。
「バリのスバッほど詳細な水資源経営組織は他に例を見ない。社会文化面から管理機構、
そして現場の地理的応用に至るまで。バリで水資源経営はライフスピリットの一部になっ
ている。」

タバナン県ジャティルウィ地区が世界遺産サイトに指定されたことで、来訪者数は激増し
た。入場券販売だけで年間18億ルピアの収入が得られている。「収益は、運営組織、村、
地方自治体、そしてここの水源を擁している地区に分配されている。」と地元の有力者は
語っている。

水はみんなのものであり、みんなが水の恩恵を享受するためにどうするのか、享受した結
果をどう再配分するのか。水資源イデオロギーはきっと、変化しつつも発展を止めないに
ちがいない。