「ブラボー、ギリエタ!」(2019年10月07日)

ライター: バリ在住フランス人芸術研究家、文化人、ジャン・クトー
ソース: 2019年9月29日付けコンパス紙 "Bravo Greta, Kau Menunjukkan Bagai-
mana Menjadi Dewasa"

昔からペシミストは、現在より未来のほうが素晴らしいという考えを受け入れることので
きない黄昏年代の男性たちだった。政治情勢、社会の繁栄、女たちのモラル(男のモラル
が問題視されたことはない)、礼節などのあらゆる時代の変化を示す諸相が適宜歪曲され
て、「昔は良かった」という結論が導かれた。スハルト親爺の時代か、ブンカルノ時代か、
それともオランダ時代かは人さまざま。

ところが二三十年前のグローバリゼーション拡大ショックに合わせて、社会ペシミズムは
さまざまな方向に分裂するようになった。アイデンティティ原理がしばしば混入されて、
個人や集団が過去を振り返り、宗教・種族・民族の過去の栄光の復活を夢見るようになっ
た。

何が起こったのか?どうしてそんな不合理な考えが臆面もなく表面化してきたのか?わた
しが考えるところでは、それは貧困、コントロール不能なアーバナイゼーション、情報シ
ステムの変化、そして極めつけとしてのとどまるところを知らないエコロジー破壊といっ
た現実社会の動揺に対する反応なのである。たとえその反応にどれほどの歪みがあったと
しても。


あらゆるものが変化する。おまけに政治社会情勢の不安定化現象は世界中に広がり、新グ
ローバル資本主義構造の特徴にさえなっている。そんなとき、悲観的な追想と政治宗教的
神話を乗り越えて、ひとりの少女の声が響き渡った。編髪で真摯な表情をした16歳のス
エーデン人少女ギリエタ・テュンバリGreta Thunbergの声だ。最初かの女はスエーデンで
学校スト運動を推進した。環境保護を願うヨーロッパ諸国の学生生徒たちがそれに追随し、
その波は世界中に及んだ。

かの女にとって最大の問題は、文化コンフリクトでもなければ中東問題でも未来の中国覇
権でもなくて、全人類の母たる地球の破壊なのだ。かの女のパースペクティブはローカル
視点でもなければセクト主義でもなく、直接グローバルに相対している。

興味深いのは、かの女は「師」になろうとしないことであり、いかなる宗教神話に鞍を置
こうともしない。ただ理性だけ。かの女は証明済み学術検討結果を指し示して、相手のエ
コロジー意識に訴える。かの女は地球温暖化現象、熱帯雨林破壊、海面上昇、二酸化炭素
過剰排出などの問題を語るのである。


国連でのスピーチに招かれたとき、かの女は世界の指導者たちが子孫の運命を大切にして
いないと述べて、かれらをあけすけに非難した。かの女の意識の中では、エコロジー分野
におけるドラスチックな対応を講じようとしない世界の指導者たちのピントの外れた姿勢
は、未来の世代が抱く夢の実現に対する裏切り行為以外のなにものでもないということに
なるのだろう。

政治家・経済産業人・未来学者たちはどうしてひとりの少女に教えられなければならない
ような誤りを冒していたのだろうか?かれらは意識しないまま利益ネットワークによって
目を覆われていたにちがいない。

かれらはもちろん、人類がエコロジー問題に直面していることを理解していた。しかしか
れらはテクノロジーを総動員することで環境破壊の抑止が可能であると考えていたのだ。
人工知能・ロボット・ナノテクノロジー・遺伝子操作などの最新テクノロジーが無限の進
歩の可能性の扉を開くのだ、と。

わたしが思うには、かれらは誤っていただけでなく、目が見えなくなっていたのだ。アグ
レッシブ資本主義原理に担がれた経済と技術の進歩発展はエコロジー破壊をもたらしたば
かりでなく、上で触れたようなアイデンティティポリティック現象がもたらした社会的な
歪をも生み出したのである。

そのような混乱無秩序状況の中にギリエタ・テュンバリは爽やかな風を吹き込んだ。かの
女は自分を取り巻く環境の様子を子供の持つ敏感さで感じ取った。気候変動・大気汚染・
移民の洪水・等々だ。そして現代教育を受けた、ソーシャルメディアを使いこなす若者と
して、文化や国境を越えた場での活動を開始した。グローバル社会がかの女の耕す畑にな
った。

われわれははじめて、民族を超えた人類という場で巻き起こった大規模な政治運動を、そ
れも意図というフェーズばかりか実践というフェーズまで含まれたものを、ギリエタ・テ
ュンバリに見たのである。これまでわれわれに不安をもたらしてきたあらゆる政治現象は
かの女にとってマイナーなものでしかなく、かの女が見詰めている唯一最大の問題は「母
なる地球が病んでいる」という現象だった。人類はそれを救わなければならないのだ。

ブラボー、ギリエタ!どのようにして大人になるかということを、あなたはわれわれ大人
に教えてくれた。子供たちよ、ようこそ政治の世界に入ってきてくれた。地球はあなたた
ちの関心と愛情を待ち望んでいるのだ。