「ガベンはヒンドゥ火葬儀式」(2019年10月21日)

バリ島でヒンドゥ教徒が伝統的に行ってきたガベンngabenの儀式は、死者の魂アッマatma
を彼岸の世界シワロカsiwalokaに送り返すためのものだ。儀式はnista, madya, utamaとい
う三つのレベルが定められており、社会的な地位や財産に応じて行えるようになっている。
そうしなければ、下層民衆の中にいつまでたっても儀式の行えないひとびとが出現するこ
とになってしまう。

現世に暮らしていた時のレベルにマッチするものが選択されるのがその状況における社会
性というものだ。社会的なレベルに合致する身分相応の振る舞いが社会性と認識されてお
り、それを外せば世間から非難を受けることになる。王や王妃、王家の一族の場合は更に
高いレベルの内容が営まれるのが当然の話であり、そうでない者の遺族がそんなレベルの
ガベンを行うことは許されない。

死はアッマが最高神サンヒヤンウィディワサSang Hyang Widhi Wasaの元に回帰すること
で完成する。その完璧なる死に至るためにアッマがたどる道程は、その者が在世中に行っ
たさまざまな行為が招き寄せるカルマkarmaの影響を強く受ける。カルマの影響下にある
アッマの道程は、世人のだれひとりとしてそこに手を貸すことができない。それはあくま
でも本人の問題だから。


2018年1月13日、バドゥン県クロボカン村の墓地セトラsetraでウタマレベルのガベ
ン儀式がイ・グスティ・アディ・プトラ氏のために挙行された。そこに見られた九層の屋
根のトゥンパンtumpangとバデbadheがこのガベンのレベルを象徴している。層の多さは
故人がクサトリアkesatria階級の者で、王家との縁を持つワンサwangsaに属していること
を示している。

バデは故人の遺体の入った棺をセトラに運ぶ際に使われる。ニスタレベルであればバデは
使われず、棺だけがセトラに運ばれて行くのである。棺を載せたバデは竹の輿に載せて運
ばれるが、たいそう重いために遺族だけで運んでいくのは無理で、大勢の村人たちが交代
でその運搬にあたる。その日、村人たちは5キロの距離を3時間かけてセトラまで運んだ。

王家あるいは一族が長老役に認めたふたりが、ひとりは強酸液で処理された極楽鳥を捧げ
持ち、もうひとりは黄米とケペン銭を混ぜたのを持ってバデに乗る。銭と米は怖ろし気な
場所であるトゥグッtengetを通るときにそれを撒いて、超自然の怪異存在に通行の許しを
請うのである。

バデには、頭に種々の奉納品バントゥンBantenを載せた女たちの行列が従う。そして火葬
の際に舞う踊り子たちの行列とふたりの親族の娘が続く。ふたりの親族の娘とは子供ある
いは孫の世代の女性で、このふたりがアッマの道程を切り開くようにという遺族の願いが
込められている。

その日のガベンを見にやってきた見物人の中には、外国人観光客の姿もちらほらと見られ
た。オーストラリア人のスミスさんは、バリにはこういった珍しいものがあるので自分は
バリを何度も訪問している、と語った。「ガベンの儀式はこれまでに見たことがあるけど、
こんな豪華なレベルのガベンを見たのは今回が初めてです。」とかれは述べていた。バリ
州観光局はガベンを観光資源にすることを考えている。