「嘆きのモロタイ島(4)」(2019年12月12日)

地元民から外来者までが、大きな軍用機材を鋸で切断して運び去った。艦艇接岸用の埠頭
すら解体され、陸上や海中に転がっていたあらかたの金属が姿を消して行った。真鍮の砲
弾薬莢も海底から拾い上げられた。自動車は数百台、戦車は数十台、水陸両用戦闘車両も
多数が切り刻まれて運び去られ、世間の雰囲気はかなり現在のような状態に近付いてきた。
スムスム島のマッカーサー宿舎を守護していた戦車は2005年に解体された。

メティタMetita島とデヘギラ岬の間の潮流の強い場所で連合軍は、危険を知らせるための
真鍮製の鐘を設置した。水流が強まれば鐘が鳴って航行船舶への警鐘になる。その鐘すら、
何者かが持ち去った。戦争とは無関係な、平時でも地元民の役に立つものだったというの
に。


その主流が戦争用途だったとはいえ、連合軍はモロタイ島に文明を持ち込んだ。しかしそ
れは地元に根付かなかった。文明を継承する者はおらず、連合軍が去ると文明も姿を消し
た。

束の間のことだったとはいえ、連合軍がモロタイ島に置いた文明を地元民はジャカルタの
共和国政府が多少なりとも受け継ぐことを期待したが、共和国政府の優先度はモロタイ島、
ひいては北マルク地方、に置かれていなかったのである。「アメリカは島中に道路を作っ
たが、ジャカルタはそのほんの一部にアスファルトを流しただけだ。」というのが、地元
民がよく口にする愚痴だ。


地元民はモロタイ島の発展を、観光産業に求めて行くしかなかった。戦争のおかげで生じ
た歴史観光と、本来的に神から与えられた海洋観光だ。観光客がモロタイ島へ行くには、
空路であればまずテルナーテのスルタンバブラSultan Babullah空港へ飛ばなければなら
ない。

全国最大のスカルノハッタ空港より素晴らしいと評される滑走路を持つレオワティメナ空
港は地味なローカル空港でしかないのだ。2019年4月の情報では、スルタンバブラ空
港からレオワティメナ空港へウイングスエアーが毎日一便を飛ばしているそうだ。

モロタイ島へ海路を使うなら、テルナーテのアッマディヤニAhmad Yani港からモロタイ島
ダルバ港に向かうフェリーを使うことができる。乗船料金はひとり16万ルピア。

もっと短い船旅にしたければ、ハルマヘラ島の北東にあるトベロTobelo港まで陸路を使い、
料金がひとり16万ルピアのスピードボートに乗るか、ひとり6万ルピアの木造船に乗る
か、乗船料金ひとり2万ルピアのフェリーに乗るか、という選択肢が選べる。

モロタイ島に入れば、街中を走っているベントルbentorが一般的な交通機関だ。ジャワ島
のベチャを自転車からオートバイに取り換えた構造になっているのがベントルで、その名
称はベチャとモトルBEcak daN moTORの短縮語なのだそうだ。ベントルの発祥はスラウェ
シ島の北部地方らしく、中部スラウェシやゴロンタロでもたくさん走っている。

ベントルもベチャと同様、距離によって料金が異なる。最低が1万ルピアだそうだ。モロ
タイ島でもジャワと同じようにタワルムナワルの慣習が当たり前になっているのかどうか、
訪れたことのないわたしにはよくわからないのだが・・・

レオワティメナ空港には観光客用のレンタカーがある。一日のレンタル料金は50万ルピ
アほどで、加えて運転手に一日15万ルピア、ガソリン代が20万ルピア、ガイドに25
万ルピアが別に必要となるそうだ。

モロタイ島周辺の別の島々に向かう場合、最大15人まで乗れるスピードボートのチャー
ター料金は半日80万ルピア。木造船はもっと廉いが、航海時間が数倍かかる。
上の諸料金はすべて2019年4月のコンパス紙に掲載された情報だ。この地域一帯はガ
ソリンが潤沢に供給されていないらしく、ガソリン価格がかなり高いことを知っておくべ
きだろう。[ 続く ]