「恐怖の破滅性向(1)」(2020年02月10日)

2014年7月25日(金)午前9時ごろ、南ジャカルタ市スディルマン通りカレッ地区
の歩道橋で、橋の上で商売していたひとりの男性物売り35歳が後頭部を鉈で切られて重
傷を負う事件が発生した。

現場近くにいた橋上物売り仲間のひとり、53歳の女性は、被害者アンドレが仲間のジャ
ウィルといつものように冗談を言い合って戯れていたのを、事件発生の直前に見ている。
「ええ、いつものようにふたりはふざけ合ってましたよ。わたしゃ客の相手で忙しかった
から、ずっと見てたわけじゃない。で、ふっとふたりの方を見たら、アンドレが地面に横
たわってるじゃありませんか。最初わたしゃアンドレが殴られてのびたんだろうと思いま
したが、橋の路面に血がどんどんたまってるのに気付きました。」


道路両側のオフィスビルに出勤する会社員であふれている時間帯に起こった暴力傷害事件
だったことから、通行中の会社員が数人、アンドレを抱えてマヤパダタワービルの警備員
詰所に運び、警備員が被害者を病院に送り込んだ。ミントハルジョ海軍病院に運ばれた被
害者の容態はたいへん悪く、26日の新聞記事によれば楽観視できない状態であるとのこ
とだ。

橋の上に点々と並んで商売していた物売りたちの証言によれば、ジャウィルは真っ青な顔
で橋の上を右へ左へ行ったり来たりというパニック症状を5分くらい続け、警備員がかれ
を捕まえようとしたら暴れてそれを振り払い、走って橋から歩道に下りてそのまま逃げた
そうだ。

ジャウィルを目で追い続けた証人は、ジャウィルはチェースプラザまでおよそ2百メート
ル走ってから、そこで客待ちをしていたオートバイオジェッに乗って姿をくらましたと語
っている。

事件現場を所轄する南ジャカルタ市警スティアブディ署はジャウィルの居所であるコスに
事件捜査のため出向いたが、ジャウィルが戻った形跡はまったくなかった。

病院のアンドレは正常な意識で警察に事件の顛末を物語っている。アンドレはジャウィル
に「オメーが使ってるデオドラントは詰替え品だぜ。」と冗談交じりに言ったそうだ。と
ころがジャウィルはそれを冗談扱いせず、聞き捨てならんという応対をしてきた。何度か
言葉の応酬があり、そして激昂したジャウィルは肩から下げたバッグから鉈を取り出して
アンドレに斬りつけた。ちょうどそのときアンドレは顔を後ろに向けていたため、とっさ
の備えなどなしに後頭部に鉈を受けることになったようだ。


インドネシア事情に疎い方への説明が多分必要だろう。詰替え品とは、たとえば香水類を
例に取るなら、世界の著名メーカーが生産した瓶詰めオリジナル品を使い果たした消費者
がその空き瓶を捨てると、廃品流通ルートに入ったそれを買い集め、そこに模造品を詰め
て、あたかもオリジナル品であるように思わせながら超廉価で販売するという商法のこと
だ。販売者は決してオリジナルブランドの名を口にしない。ラベルを見て〇〇ブランドと
思い込むのは買い手の方なのである。その瓶の中には値段相応の安物が入っているのであ
り、テストもご自由にどうぞと認められているのだから、あとは買い手のクオリティ認識
力や評価力が決め手となる。[ 続く ]