「教科書に見る日本軍政期(5)」(2020年02月20日)

1945年5月1日、クマキチ・ハラダ最高指揮官が率いるジャワの日本軍政は独立準備
調査会を編成した。会長にはドクトルK.R.T.ラジマン・ウェディヨディニンラが就
き、副会長ふたりがそれを補佐した。ひとりはチルボン州長官の日本人、もうひとりはR.
P.スロソだった。スロソは、トヨヒコ・マスダとA.G.プリンゴディグド法学士に補
佐されて独立準備調査会事務局長を兼ねた。調査会メンバーは60人と日本人7人で、日
本人は投票権を持たなかった。スカルノ工学士はさまざまな分野で議論に参加することを
希望し、会長の座に就かなかった。調査会メンバーの任命式は、日本の天皇陛下の誕生日
にあたる5月2日に行われた。

任命式にはイタガキ将軍とユイチロ・ナガノ将軍のふたりの日本軍高官が列席した。式場
では紅白旗が日章旗と共に掲揚された。独立準備調査会の任務は、インドネシア独立の準
備活動について調査することだった。そのために下記のようないくつかの作業委員会が設
けられた。

(1) 草案委員会 任務は憲法前文案の策定で、スカルノを委員長とする9人がメンバー。
(2) 憲法作成委員会 スカルノを委員長とし、スポモ法学士博士教授を議長とする小委員
会が設けられた。
(3) 財務経済委員会 委員長はモッ・ハッタ学士
(4) 国防委員会 アビクスノ・チョクロスヨソが委員長

1)第一会期(1945年5月29日〜6月1日)
各委員会ができあがると、独立準備調査会は二段階で行われる審議をスタートした。その
審議の中で国の基本原理が話し合われた。メンバーの数人が基本コンセプトを紹介するス
ピーチを行った。ムッ・ヤミン法学士、スカルノ工学士、スポモ法学士教授である。19
45年5月29日、ムハンマッ・ヤミン法学士はインドネシア共和国民族国家の基本原理
と題するスピーチで、次の5項目を基本原理にするよう提案した。
1.民族主義
2.ヒューマニズム
3.宗教性
4.大衆性
5.民衆福祉
1945年5月31日にスポモ法学士教授は国家基本原理に関わる考察事項として次の5
項目を表明した。
1.統一国家思想
2.国家と宗教の関係
3.議会制度
4.国家社会主義
5.外交関係
それらを国家基本原理にせよということを言っているのでなく、将来の独立インドネシア
国家基本原理の検討に、それらの要素を忘れないようにせよという忠告だった。1945
年6月1日、スカルノ工学士は審議の場で独立インドネシアの基本原理に関する提案を5
項目にまとめて演説した。
1.インドネシア民族主義
2.国際性またはヒューマニズム
3.合議またはデモクラシー
4.社会福祉
5.一神教型有神性
ある言語専門家の推薦で、スカルノはその五項目をパンチャシラと名付けた。最終的にス
カルノの提案が更に推敲を加えられてインドネシア共和国の国家原理に定められた。調査
会会期中の審議の中では、インドネシアの国家五原則はまだ合意可決に至らなかった。
[ 続く ]