「伝説の国(前)」(2020年04月08日)

ライター: 放浪詩人、リキ・ダンパラン・プトラ
ソース: 2014年5月8日付けコンパス紙 "Negeri Dongeng Itu ..."

伝説の事実性に結びつけることのできる具体的な徴候が見つかるにつれて、伝説に登場す
るいくつかの国が科学者の関心を吸いよせている。たとえばチベットの神秘の国シャンバ
ラShambala、巨人の住む国ラムリLamuri、地中に呑み込まれたと言われているマジャパヒ
ッMajapahit、中でももっともポピュラーなのがプラトーの書いた対話篇ティマイオス
TimaeusやクリティアスCritiasに登場するアトランティスAtlantisだろう。

ナチスドイツの科学者ハインリッヒ・ヒムラーHeinrich Himmlerは1938年に白人アト
ランティス族の末裔を求めてチベットの実地調査を行った。ユリウス・エヴォラJulius 
Evolaの著作Revolt Against the Modern World, 1934 によれば、アトランティス族は北
極から来たノルディックのスーパー人類だったとのことだ。その関連では、アルフレード
・ローゼンバーグAlfred Rosenbergがその著The Myth of the Twentieth Century, 1930 
で、ノルディックアトランティスあるいはアーリアノルディックの種族長について述べて
いる。

しかしアトランティスの位置について、最新の研究はそれまでの説をすべて否定している
。ブラジルの物理学者で核科学者のアリシオ・サントスArysio Santos教授は2005年
にアトランティスの位置を発見したと主張した。かれはアトランティスの位置が現在イン
ドネシアと呼ばれている地域にあったと結論付けたのだ。プラトーがアトランティスにつ
いて描写した特徴が、その島国が持っている考古学的・地理学的・文化的な実態に合致し
ていると教授は説明している。

それからほどなく、オックスフォードの遺伝子学専門家スティーヴン・オペンハイマー
Stephen Oppenheimerがサントスの主張に裏付けを与えた。かれはその著Eden in the 
East, the Drowned Continent of Southeast Asiaの中で、世界の古代文明発祥の地は東
南アジアであり、プラトーの言う海中に没したアトランティスとはスンダランドSunda-
landであるという結論を、かれの遺伝子学研究にもとづいて表明した。

世界の学術界にとって、サントスとオペンハイマーの理論を受け入れるのはきわめて困難
だった。なぜなら、既に組み上がっている人類文明史の全面改定をそれは意味しているか
らである。ただ、そのふたりの科学者が提示している種々の証明はほとんど反証の余地の
ないものと見られている。

< アトランティス文化 >
プラトーをあれほどまでに魅了したアトランティス文化の内容とはいったい何だったのか
?クリティアスに述べられた内容から、われわれはアトランティス文明の高貴な三本の柱
を結論付けることができる。共同意識(法の順守を含む)、飾らない素朴さ、物質的欲望
に対する抑制能力がその三つだ。アトランティス住民は「自分が持っている物が自分個人
の所有物であると考えず、共同所有物であると考える。かれらはまた、自分が必要とする
だけの食料があればそれでよしとし、それ以上の量を貯えようと求めない」。

それは、所有欲、軍事的征服、自己の勢力優位を誇るといったポイントで文明の偉大さを
測る傾向を持つコンチネンタル文化と正反対の特徴だ。それがために、人種差別的な支配
欲でアトランティスを探そうとしたヨーロッパ人は真のアトランティスを見つけ出すこと
ができなかったのである。それどころか、世俗的社会主義さえアトランティスを見つけ出
すことは不可能だった。なぜなら社会主義における共同意識は性欲のコントロール概念を
持っていないからだ。

< インドネシアの自然文化 >
クリティアスに述べられている諸価値が、ヌサンタラの諸種族が伝統的に実践していた生
活秩序を構成している諸価値であることは事実だ。それらはインドネシア文化の基本構造
の中にあるふたつの面に表出している。ひとつは儀式の伝統を生かし続けようとする意欲
、もうひとつは種族社会の秩序の中で示されるスピリチャルなひとびとの文化的機能とス
ピリチャルステータスを得るプロセス。その結果この種の文化秩序は文化受託者に慣習リ
ーダーの厳しい選抜を強いることになる。[ 続く ]