「テタルア(前)」(2020年07月27日)

西スマトラ州のミナンカバウ語でタルアtaluaは卵telurを意味している。だからテタルア
とは卵茶ということになる。ところがコンパス紙に登場するタルアの表記は第一音節もし
くは最終音節に咽喉閉塞音が伴われていて、タッルアta'luaあるいはタルアッtalua'とい
う発音が示されている。ミナンカバウ語辞典にはその閉塞音が記されていない。

この現象についてわたしは、世界のたいていの言語が文明発展の中で標準化を目指した結
果、元々は音であった言語が標準文字化(標準綴り方)というプロセスを通して文字によ
る音の統制に進んだ歴史の流れが、インドネシアにおいては徹底されていない状況を感じ
るのである。わたしはそこに口承文化の民の本質を見出すような気になるのだが、遅れて
いる進んでいるという価値観を絶対無二のものにしている民には、その現象は見下す対象
にしかならないかもしれない。

国語政策に関わっているインドネシア人学者の中にも、その種の強迫観念を抱いて音より
文字優先のスタンスを取っているひとびとが存在する。この種の文明化の方向性にわたし
は今ひとつ適正感が抱けないでいる。いや、わたしは文字表記を否定しているのでなく、
単一標準思想に疑問を呈しているのである。


西スマトラ州パダンの町には、テタルアの茶房kedaiがたくさんある。住民には、朝に一
日を開き、あるいは夕に一日を閉めるためにテタルアを飲むひとが多いそうだ。もちろん、
一日中でいつ飲もうが、だれもとがめはしないのだが。

ネットサイトに見られるテタルアの作り方はこうなっている。
1.まず紅茶を沸かしておく。ショウガを一切れ、叩いてから入れると良い。
2.卵黄一個と適量の練乳、パダンではそこに砂糖が混ぜられる。
3.2.を完ぺきに混ぜ合わせる。ハンドミキサーを使っても良い。
4.3.に沸騰した紅茶を加えてよくかき混ぜる。
5.しばらく置いておくと、コップの中で上下の層に分かれる。
6.新鮮なライムのスライスを一切れ添える。これは卵黄の生臭みを軽減させるためのも
ので、飲む人の好みにまかせる。

まあ平たく言えば、コピSTMJkopi esteemjeの紅茶版といったところだろうか。ST
MJというのはsusu, telur, madu jaheの頭字語で、コーヒーにそれらが混ぜられた精力
増進コーヒーのことだ。

卵茶に使われる卵はアヤムカンプンayam kampungもしくはベベッカンプンbebek kampung
の卵とされている。ayamは鶏、bebekはアヒル、kampungは村というのが辞書に載っている
定義だが、アヤムカンプンとは何か?次のページをご参照ください。
「アヤムカンプンとは何ぞや?」
http://www.j-people.net/news1001/013/07/0130701-1.html
http://www.j-people.net/news1001/013/07/0130701-2.html
[ 続く ]