「テタルア(後)」(2020年07月28日)

生卵の黄身が使われると聞いて怖気をふるった読者もいらっしゃるにちがいあるまい。そ
れとも、パダン人は衛生観念がないのか、と?

テタルア茶房で厳守されている決まりのひとつに、ディギンdinginになった卵を使っては
ならないというものがある。卵は産み落とされてから3日間がパナスpanasであり、それ
を越えるとディギンになる。茶房の主人は厨房にある卵がいつ産み落とされたものかを知
っていなければならない。商業ルートに乗せられて市場を回っている卵では決してできな
いことだ。

練乳や粉乳も茶房の主人の目を免れるものではない。最高のテタルアを客に供しようと身
構えている茶房の主人が選別する材料は、かれのビジネス環境の中で得られる最高のもの
が使われている。そんな話を聞いて、その中に茶のクオリティが登場しないことに疑問を
抱く必要はない。インドネシアの茶葉の伝統では、庶民の口に入る茶葉のクオリティはロ
ーエンドが当たり前になっていたのだから。しかしそれでも、茶葉にこだわりを抱く茶房
の主人もいるのである。


パダン市Mヤミン通りのテタルア茶房で取材したコンパス紙記者に、茶房の主人は作り方
を披露した。まず透明のコップに大匙一杯の砂糖を入れてから卵黄を落とし込む。次に十
本をはるかに超えるリディlidiを手に握って、コップの中をかき混ぜる。リディというの
はヤシの葉の葉脈を乾燥させたものだ。それを大量に束ねてほうきにしたものはサプリデ
ィsapu lidiと呼ばれている。

茶房の主人によれば、何本を使うかは決まりも規準もないが、かき混ぜるのはリディが最
適だそうだ。「スプーンで混ぜてはいけない。よい結果が出ない。細かくかき混ぜるのは
たくさんのリディを使うのが一番だ。均一に混ざって、全体が膨らんでくる。」

三分間ほどかき混ぜ続けると、パン焼きのドゥのような膨らみが感じられるようになる。
次いで茶葉を茶こしに入れて上から熱湯を注ぎ、コップの中に流し込む。茶葉は前もって
中身をチェックし、茎や塊りなどを取り去った完璧な茶葉にしておかなければならない。
他の不純物が入っていると、味がぶち壊される、と主人は語る。

茶こしへの熱湯の注ぎ方は茶葉の全体にかかるようにして、緩慢にそろりそろりと行われ
る。どっと湯を注いではならないのだ。そして、そのときの湯は必ず熱湯でなければなら
ない。ぬるい湯では、良い卵茶ができないのである。

熱湯が注がれはじめたコップの底は、茶色い液体の中にクリーム色の泡が立ち始める。卵
と砂糖のドゥは茶に押し上げられて、コップの中が茶色とクリーム色の層に分かれる。す
るとその上から練乳が加えられて、コップの底に沈む。こうして底の白い練乳の層、その
上の茶色い紅茶の層、上部に泡っぽいクリーム色の卵黄という三つの層ができあがる。

たまたまこの茶房でテタルアを飲んでいたポーランド人旅行客は、その実演を見て目を丸
くしていた。「わたしはこれをホットチョコレートだと思って飲んでいた。作り方を見な
ければ、そう思ったままパダンを去ったことだろう。実に驚きだ。」ポーランド人のマル
ゴルザタさんはコンパス紙記者にそう語った。[ 完 ]