「食の多様性の誇りと現実(5)」(2020年11月20日)

[シンコン]
米と小麦以外の炭水化物摂取源としてインドネシアの国産食材の見直しを政府が国民に奨
めているのは、輸入の増加を避けたい意向がそこに含まれているのに間違いあるまい。国
民がコメ一辺倒では生産が需要を満たせないためにコメを輸入せざるをえない。コメ離れ
と食品多様化を国民に奨めると、今度は麺やパンなどの小麦粉素材食品の需要が増加して
小麦輸入が増大したから、それでは何をしていることやら分からない。

小麦粉の代わりに国内でたくさん生産されているシンコンで何とかできないかという考え
がモカルmocalの生産に向かわせた。mocalとはmodified cassave flourの短縮語だ。モカ
ルは国内小麦粉需要の2割を既に担っており、ほとんどすべてのスナック菓子類にはモカ
ルが混ぜられている。シンコン粉を小麦粉にブレンドして小麦粉の使用を減らすことがモ
カルの使命になっているのである。

国内のモカル製造会社は6社あって年産5万トンが市場に出されている。実需要は400
万トンだそうだ。スマランの大手メーカーは、全国で生産されるモカルを全量集めてすべ
ての小麦粉ブレンド品を作れるだけの能力を持っているという話だ。

モカル製造会社の生産量は農民協同組合が納めるシンコンの量に頼らざるをえない。スカ
ブミ所在のモカル製造会社は地元農民が供給する量によって生産量が決まると語っている。
日製は6トンのシンコンから2トンのモカルを作っている。

スカブミの小麦粉需要は一日50トンであり、モカルはその20%を代替できるために日
製10トンが現在の目標になっているものの、そのためのシンコンの必要量は30トンで、
現状からはまだまだ遠いありさまだそうだ。

しかしシンコンは海抜1千5百メートルを超えて1万メートルまで、インドネシアのすべ
ての州で成育が可能であり、土地の肥沃さや水利の状況にあまり影響を受けず、おまけに
肥料も殺虫剤もたいして必要でないという利点を持っているために、だれでも手軽に狭い
空き地で栽培することが可能である。

しかも単位面積当たりの生産性は抜群に高い。ヘクタール当たりの収穫は12トンに達し、
2004年の国内総生産量は1,940万トンで米の5,400万トンに次いで第二位に
なっている。1,940万トンの6割が加工工場に回されて粉末タピオカや粉末キャッサ
バになり、残りは生産者農民が地元地域での消費用に販売しているケースが大半のようだ。
シンコンは洗浄して三日間天日乾燥させると、インドネシア語でガプレッgaplekと呼ばれ
る白っぽい食材になる。その乾燥が不十分だとカビが発生して黒っぽい色になる。ガプレ
ッを粉砕したものが粉末状のタピオカと呼ばれるものだ。

粉末タピオカはバソbakso・クルプッkerupuk・ペンぺpempekなどに使われて全国的に大き
く消費されている一方、粉末キャッサバはまだまだ利用度が低い。粉末キャッサバは小麦
粉や米粉に栄養価やうま味の点で劣らないことが実証されており、パンや菓子類・バソ・
麺・即席麺・ビーフンなどに使われている。即席麺製造業界の小麦粉消費量は15%がキ
ャッサバ粉に代替されている。ローエンド即席麺ならキャッサバ粉は25%まで使われて
いる状況だ。

[サゴ]
サゴはサゴヤシ(インドネシア語ではrumbia)の幹から作られる。サゴが得られるヤシの
種は多彩で、インドネシアの各地に生えている。パプアやマルクで重要な主食の位置に置
かれていたため、それらの地方が特に有名だが、スラウェシ・カリマンタン・ジャワでさ
えサゴヤシは生えている。他の地方がサゴを食糧として扱わなかったから、食糧としての
サゴは影が薄いが、木そのものは他地方でも決して珍しいものでない。

インドネシアサゴソサエティ会長をしているボゴール農大農業学部教授は、インドネシア
のサゴ林は6百万ヘクタール近いと語る。ヘクタール当たりで20〜40トンの乾燥粉末
サゴが生産される。国民を一年間食べさせるために3千万トンの稲を作ろうとすれば、1
千2百万ヘクタールの水田が必要になる。サゴでそれだけの量を生産するなら1百万ヘク
タールの土地があればよい。国民が米食偏重でなければ、国内に食糧危機が起こることは
考えられない。教授はそう述べている。[ 続く ]