「食の多様性の誇りと現実(11)」(2020年11月30日)

ノゴグヌの身体を細切れにして、整えた土地に撒きなさい。そうするために、お前は兄弟
たちに殺されなければならない。ノゴグヌはわが身を犠牲にして兄弟たちの暮らしのため
に死を選んだのです。

その日から7日が経過して、小腸から粟が生え、大腸からトウモロコシとソルグムが生え、
頭からはカボチャや種々の野菜が生え、他の部分から稲が生えました。東フローレスのラ
マホロッlamaholot族の社会では、稲とトウモロコシのことをトヌウジョ(偉大な娘)と
呼んでいます。


ソルグムは地質や気象への適応性がきわめて高く、水の多寡にあまり影響されず、生産性
が高く、病気や害虫の被害を受けにくい性質を持っている。ジャワやヌサトゥンガラの農
民は古くからソルグムを知っており、副次的にではあっても栽培されて来た。

ソルグムはたんぱく質をコメの1.6倍、鉄分は5.5倍、硫黄分は2.1倍、ビタミン
B1は3.1倍、油脂分4.7倍、カルシウム4.6倍含んでいる。生産性も高く、房の
部分を刈り取るとまた房が生えて来るため、一度育てると収穫が複数回行える。

ソルグムの粒は米粒より小さいが、コメのように飯にすることができるし、発酵させてタ
ぺtapeも作れる。またその粉から麺・パン・菓子・クルプッkerupukできる。茎は糖分を
含んでいるため、搾った液体から砂糖を作ることも可能だ。搾ったあとの茎を粉砕して家
畜の餌にも使われている。

米どころとされているジャワ島でも、多用途で生産性の高いソルグムの栽培は進められて
いる。ヨグヤカルタ州バントゥルBantul県や東ジャワ州ラモガンLamongan県でも単位面積
当たりの売上げがコメより大きくなるとして、ソルグムに取組む農家も増えている。特に
乾季のひでり対策として大いに有効であり、肥料や殺虫剤もあまり必要とせず、三カ月で
収穫でき、ヘクタール当たり7〜8トンが得られる。

東ジャワ・中部ジャワ・ヨグヤ・西ジャワでは開発物産の趣が強いソルグムだが、東ヌサ
トゥンガラでは昔への回帰という印象がある。ティモール島ソエSoeでは、1970年代
まで一般的だったソルグムが80年代に影をひそめ、島外から運び込まれたコメがほとん
どすべてのパサルを覆ってしまったために住民のコメ志向がもっぱらになってしまった。

地元民は昨今、アダッadatを回復させるためにもソルグムを無くしてはいけないという意
識のもとに、あちこちの村でソルグム栽培の復活が進められている。

ソルグムは水不足や炎熱に耐える長所を持っており、雨季に20日ほど連続して続く酷暑
の時期に稲やトウモロコシは負けてしまうことがよく起こるのだが、ソルグムにはそれが
ないという長所を農民のひとりは述べている。

同じような話を東フローレスの西アドナラ郡キマカマッ村の村長からも耳にした。
「ソルグムはヌサンタラの各地で昔から栽培されており、フローレスでも同じでした。わ
たしも子供のころはソルグムを食べて育ちましたよ。ところが1970年代からソルグム
が減って来て、80年代にはどこを探しても見つからなくなりました。野生のソルグムは
ありますよ。でも農民はだれも栽培しようとしないのです。こうしてソルグムは食卓から
消えてしまいました。
当時のオルバ政権が稲を植えて米を食べるように勧めたのです。だけどこの辺りは乾燥地
ですから、陸稲を育てるしかありません。地元のコメ生産が需要を満たせないのだから、
不足するコメを外から買う以外に方法はありませんでした。
でも異常気象が起こるようになったから、他のコメの産地でさえ不作になり、こちらまで
コメが回って来なくなります。コメの生産を増やし、不足はトウモロコシで補おうとして
も、強風で稲もトウモロコシも倒れてしまい、二進も三進も行きません。
それで民間団体の支援でソルグムを栽培してみようということになり、最初われわれは半
信半疑でしたが、結果が良かったために自信がつき、今ではその方向性を進展させていま
す。」
[ 続く ]