「食の多様性の誇りと現実(14)」(2020年12月03日)

別名ウビマドゥubi maduと呼ばれるように、この芋を焼くと糖分をたっぷり含んだ粘つく
液体が流れだして来る。この芋は焼くのが蜜をたっぷり味わう正攻法であり、また蒸して
もよいが、油で揚げると糖分がすぐに焦げてしまうし、茹でると蜜が水分に溶けだして香
りも甘味も減ってしまうから、生でないものは焼き芋の形で販売されているのがほとんど
だ。

他にも、この芋を原料にしてクリピッkripik、タぺtape、ドドルdodol、フライ粉keremes、
ジャムselai、ソースsaus、粉末tepung、菓子類aneka kue、麺mie、シロップsirupなどが
作られている。

この芋は決して新規に開発された新種でなく、山間の盆地のようなチルンブ村でオランダ
植民地時代から栽培されていたものだ。ただ、ウビマドゥができるのは稲が収穫された後
の土地であり、そうでない土地でいくら作っても品質的に劣るものしかできない。それが
共和国独立から半世紀ほど経て、全国的に脚光を浴びるようになり、外国からの注文さえ
来るようになって1999年に輸出が開始され、シンガポール・マレーシア・香港・日本
・韓国にまで輸出先が広がった。

元々ニルクムnirkum種と呼ばれていたこの芋がどうしてそれほど甘い蜜を作り出せるのか
の調査が行われて、チルンブの土壌が持っている栄養素がその鍵を握っていることが明ら
かになった。それはつまり、チルンブ芋を別の土地で栽培しても、元祖チルンブ芋に優る
ものは作れないことを意味している。


しかしチルンブ芋も困難な時期に差し掛かっている。バンドン市のリングロードであるパ
ダルニPadaleunyi自動車専用道の終点チルニCileunyiとナグレッNagreg間の国道3号線お
よそ20キロにはウビチルンブの看板を掲げた焼き芋売場が軒を並べているのだが、本物
のチルンブ芋はめったにない。売られているのはニルクム種でなく、ジャウルjawer、ラ
ンチュンrancung、イヌルinulなどの異なる種であり、おまけにチルンブ村で栽培された
ものでもなくて、別の村から仕入れたものなのである。これにはややこしい事情がからん
でいて、チルンブ種の芋Ipomoea batatas var cilembuというチルンブ村産のニルクム種
とは違うものが存在しているのだ。メネスmenesやアルネッarnetと呼ばれるそれらの種は
ニルクム種と同種ではあるものの、チルンブ村以外の村で栽培されている。ニルクムとい
う名称はmenir kumpeniの短縮語であり、コンペニのトアンを意味している。つまりオラ
ンダ人ご主人様という意味だ。

売場の主たちは一様に、チルンブ村のウビマドゥは滅多に入荷しないと語る。チルンブ村
の農民があまり作らないようになったのだという話なのだ。チルンブ村農民のひとりは、
ウビマドゥは収穫までに7カ月かかるから、他の4〜5カ月で収穫できるものの栽培を増
やしていると語っている。おまけに異常気象がそこに加わったために、生産量は最盛期の
半分未満に落ち込んでしまった。

土壌が疲弊してしまったのか、蜜の量が昔ほどたっぷり出なくなっている。さらにカビや
害虫による損傷で生産量の悪化は避けようもなく起こっている。栽培者自身が、ウビマド
ゥの栽培の要点を十分に把握できていないと語っている。
「稲の採り入れを行った後の土地が最高の条件です。ところが肥料の加減がよく分からな
い。少なすぎると芋はあまり太らない。かと言って、やりすぎると葉と蔓ばかりが育って、
やはり芋が太らない。」

もうひとつ農業専門家が指摘しているのは、チルンブ村産のウビマドゥの価格が上がり過
ぎたために、消費者が敬遠している面があるとのことだ。価格面で他種のサツマイモとは
かなりの較差が開いている。

かつてのブームは既に過ぎ去り、今やさまざまな問題が噴出している。チルンブ村産ウビ
マドゥの復活には、着実な打開策が必要になっている。[ 続く ]