「続・ヌサンタラの酒(1)」(2021年01月06日)

[ブルム]
バリ島を訪れたひとはライスワインと呼ばれるブルムbremを知っているだろう。さらにバ
リ島の土産物屋に行けば、お菓子の固形ブルムも販売されているから知っているだろう。

固形ブルムはジャワにもあるが、液体ブルムはバリとヌサトゥンガラでしか見られない。
酒飲み旅行者はバリ島の地酒を知っているだろう。アラッarakとトゥアッtuakの二つがあ
り、蒸留酒と醸造酒の違いになっている。しかし旅行者がトゥアッに触れる機会はあまり
ないにちがいあるまい。まあ、酒飲みにはアラッをあてがっておけば十分ではあるのだが。


バリ島の伝統地酒にはアラッarak、トゥアッtuak、ブルムbremの三つがある。バリのアラ
ッはアレンヤシpohon enau (aren)やロンタルヤシpohon ental (lontar)の花穂から採ら
れた液体であるニラniraを素材にしている。トゥアッも同じだ。一方、ブルムは白または
黒のモチ米beras ketan hitam atau putihを素材に使う。

バリ州カランガスムKarangasem県では、アラッやトゥアッ生産者は製造開始前にアレンヤ
シを25日間可愛がる。木に花が咲くと、花の周囲を叩いたり揺すったりして刺激を与え
るのである。25日間、毎日それが繰り返される。そうやって可愛がると、良いニラがた
くさんできるのだそうだ。

アラッもトゥアッも、最初はニラの発酵プロセスから始まる。媒体にヤシの繊維とバユル
bayurやクタッkutatの木の皮が使われる。それらの媒体はまず14〜20日間乾燥させて
から、更に石の上に置いて木で叩き、柔らかくしたものが使われる。柔らかくなったもの
がニラを溜めてある容器に入れられるのである。アラッとトゥアッの工程はその後で分か
れる。

アラッの場合は発酵日数を2〜3日かけるが、トゥアッの場合は1日で済む。トゥアッは
それでもう出来上がるのだそうだ。あとは不純物を取り除いてやるだけで、すぐに飲むこ
とができる。

アラッの場合は次に蒸留工程が待っている。発酵したニラを加熱して蒸発させ、竹のパイ
プを通して蒸留が行われる。加熱する熱源も薪が使われる。薪でなければ味が落ちるそう
だ。蒸留作業は午前5時から17時まで行われる。


バリの液体ブルムは黒または白のモチ米が使われる。モチ米はまず洗浄し、タぺ用イース
トを加えて蓋つき容器に入れ、発酵させる。8〜10日間待つと、発酵液が採れる。それ
がブルムであり、そのまま飲むことができる。黒モチ米を使えば黒いブルム、白モチ米だ
と白いブルムができる。白黒を混ぜて作れば、ブレンド物になる。バリのブルムは歴史が
古く、ヒンドゥ儀式タブラTabuhrahに使われる血を代替するものとして使われ始めたとい
う話だ。

ブルムはトゥアッよりも甘味が勝っている。トゥアッは作ってから十時間くらいは甘味が
残っているが、二日くらい経つとアルコールの強さが増して来る。


ジャワで作られるブルムは固形菓子のブルムだけであり、マディウンMadiunやウォノギリ
Wonogiriが産地になっている。マディウンのチャルバンCarubanは生産センターとして知
られており、チャルバンのバンチョンBancong村とカリアブKaliabu村はオランダ時代から
ブルムの特産地として名を上げていた。そこでブルム生産が始められたのはオランダ人が
やってくるはるか前だったそうで、今もその家業を続けている生産者たちは、先祖代々語
り伝えられたレシピ―に従って生産を行っている。[ 続く ]