「ニャイ」(2021年01月08日)

ライター: インドネシア大学文化科学部教官、カシヤント・サストロディノモ
ソース: 2008年2月29日付けコンパス紙 "Nyai"

長い間話すことがなかったところ、しばらく前にニャイがインドネシア大学のセミナート
ピックに登場した。言語面から見れば、ニャイNyaiまたはニNyiは異なるどころか相反す
る二重の語義を持っている。その呼称を前にして女性たちのイメージとモラルはふたつに
割れる。高貴と卑賎に。

KBBI第二版のニャイの語義の筆頭を見てみよう。「既婚あるいは年齢の行った女性の
呼称」、「女性が自分より年長の女性を呼ぶ際の呼称」となっていて、年長者への尊称で
あるのが明らかだ。ムラユ語も同じで、老齢の女性を呼ぶときの呼称である。

ニャイやニが女性への尊敬を示しているのは、Nyi Hadjar DewantaraやNyi Ageng Serang
のような歴史上の著名人の名前に使われていることからも分かる。ジャワのカラウィタン
音楽愛好者なら、1960〜70年代にRRIラヂオ放送でその黄金の歌声を耳にしたNyi 
TjondrolukitoやNyi Maria Magdalena Rubinemたちプシンデンpesindenの名前を忘れはし
まい。

ところが二番目の語義は東インドコロニアルシステムが残した遺産としてのニャイで、す
なわち「外国人、特にヨーロッパ人の妾」なのである。当時のニャイという呼称は、公認
の妻をヨーロッパに置いてきたコロニアルのトアンたちの隠し妻に引き上げられた使用人
にとっての単なるユーフェミズムでしかなかった。トアンに恥をかかせないよう、ニャイ
は飾り立てられた。オランダ人の言葉や作法を教えられ、クラシック音楽を鑑賞し、公式
妻のように客をもてなした。デ・ハアン著のOud Batavia(1922年)によれば、トア
ンたちはニャイに優雅な名前を与えている。サアルチェ、アニェリール、マワル、ローシ
ェなどに始まってドラマや古典文学の主人公のようなコリンナやパメラ等々もあった。

この第二語義は一部女性たちの醜い烙印を秘めたものなのである。このカテゴリーについ
てKBBIは、実はnyai-nyaiという語彙に「外国人に囲われた女性の呼称」という語義
を当てて分離しているのである。なのにいったいどうしたことか、ニャイの語義に妾を付
け加えてしまった。ブルネイのヌサンタラムラユ辞典2003年版を見るがよい。ニャイ
ニャイが妾であり、ニャイは敬称となっている。


大邸宅に囲われたニャイたちの暮らしは、今のバライプスタカである「植民地教育と民衆
図書のための委員会」が通俗ものとして出版したフィクション小説に乗って広まった。G
フランシスの小説「ニャイダシマ物語」(1896年)やラデン・マス・ティルト・アデ
ィ・スルヨの連続小説「ニャイラッナ物語」(1909年)などがそれである。1980
年の小説「人間の大地」でプラムディア・アナンタ・トゥルは、女性解放を駆る媒体とし
てふさわしいと見られる、雄々しく、モダンで、頭脳明晰なニャイ・オントソロという人
物を創造してニャイのイメージを覆した。

南海の支配者ニャイ・ロロ・キドゥルについてはどうだろうか?1982年の映画の中で
ニャイ・ロロ・キドゥルの娘二・ブロロンNyi Blorongを演じたスザンナに尋ねてみれば
いい。

北京語の語彙の中にも、ニャイの語によく似たものが存在するのをわたしは今思い出した。
娘娘niangniangの語義は1.王妃、2.側室の中の最高位者でランクが王妃に次ぐ女性、
そして敬称のニャイに対応しているのは女乃女乃nainaiだ。女乃女乃は老女・父の母・祖
母・老齢の婦人を指す言葉である。