「クロンチョンとダンドウッ(4)」(2021年02月16日)

そこに差別があったのは明白だ。なぜなら青年の誓いから独立宣言までの間にインドネシ
アで発展した西と東の融合音楽は、アミール・パサリブによればクロンチョン・スタンブ
ルstambul・ガンバンgambang・ガンブス・ジョゲッ・ランガムlanggamの6種類があった
のだから。

インドネシアにある、ありとあらゆる音楽現象の中で西と東の結合が自然発生的に起こっ
たのは、多分技術的にあれこれとこねくりまわした結果できあがったものと言う方が当た
っているだろう。そんな場では必ず実在物ができあがるのだ。たとえばオクターブを5等
分したペンタトニックのスレンドロをピアノで再現するのは、該当する黒鍵に同じ周波数
の音がないのだから不可能に決まっている。ところがカンクンを炒める際の水と油を混ぜ
るスタイルで化合物を作り上げることができるのである。こうしてインドネシア音楽はあ
ちこちでゴミ扱いされ、こっちでも向こうでも肥溜めにたとえられることになった。


スタンブルを例に取ると、その語はイスタンブルを語源としており、第一次大戦前にはイ
スタンブルがインドネシアショー芸能のメッカと目されていた。インドネシアのショー芸
能にトルコが与えた影響は実際のところ、kemidi stambulやopera bangsawanと呼ばれる
音楽演劇の中で、貴族がその妃に対して抱く欲望の物語を参考にする程度のものでしかな
かった。トルコへのその憧れは戦前に人気を高めたOpera Dja'fat ToerkiやDardanellaな
どの劇団名が物語っている。

スタンブル音楽は独特のセレナードであり、スタンブル1はトニックコードで始まり、ス
タンブル2はサブドミナントコード、スタンブル3はドミナントセブンからトニックに移
る形で始まる。それぞれのスタンダードとしては、1がポルトガル曲Haja Luzのメロディ
を借用したミナハサのInani KekeやティモールのBoleleboで、ボレレボはワゲ・ルドルフ
・スプラッマンがIbu Kita Kartiniに改造した。2はマルクのKole-Kole、3はブタウィ
のKeroncong Kemayoranだ。


ガンバンの音律は中国音楽の影響を受けている。主にメロディを担当する筆頭楽器ガンバ
ンはシロフォンのような木鍵打楽器で、中国語で黄梅調huang mei tiaoと呼ばれるスレン
ドロに似たペンタトニックスケールを持つ。スタンダード曲はJali-Jaliだ。ガムランの
ボナンに似たクロモンkromongという名の楽器がたいてい添えられる。その他にガンバン
楽団を構成する楽器には、さまざまな形をした中華風ルバブであるteh-yan、kong-ah-yan、
su-kongなどもある。1980年代に流行した曲Madu dan Racunは黄梅調のガンバンがフ
ィーチャーされている。


ガンブスはまた違う。ガンブス楽団には必ずリュートの仲間の撥弦楽器がいて、アラブや
パレスチナではウードal'udと呼ばれている。主旋律や対旋律はウードが受け持つ。しば
しばリズムが前面に押し出されて十数種のマルワスmarwasという膜鳴楽器が合奏する。ブ
タウィで花嫁花婿行列や割礼の祝いの行列で使われるクティンプリンketimpringのような
ものだ。

場所によってガンブス楽団はzafinやdehefehなどの舞踊の伴奏をする。ユニークなのは、
第二次大戦前の時期にかれらはボレロやビギンなどのラテンリズムをスタンダードにし、
バイオリン・アコーデオン・コントラバスを中心楽器に加えていたことだ。


ジョゲッについては、しばしばlanggam Melayuやirama semenanjungなどの異名でも呼ば
れた。semenanjungとはマレーシアの旧名マラッカ半島jazirah Malakaのことだ。ブタウ
ィでのものはorkes samrahに典型を見ることができる。その楽団で中心楽器になったのは、
今はもう製造されていないと思われる小型キーボードのハルモニウムharmonium(かつて
フランスではorgue expressifと呼ばれた)で、他にバイオリン・ギター・ベースおよび
マラカスやクラベスのようなリズム楽器で編成されていた。[ 続く ]