「スマトラトラ(終)」(2021年02月19日)

取調べに対してAは、そのトラは自分が狩ったものではない、と供述した。トラはスガイ
バハル地区の森で狩られたもので、自分は退役軍人から買い取っただけだというのがその
説明だった。警察は更にこの事件の捜査を継続している。
ジャンビ州でこの年1〜6月間に摘発されたトラの皮の闇売買は6件あり、11人が逮捕
されている。その中には射撃連盟会員やブルバッ国立公園内監視ポストの職員まで含まれ
ていた。
野生トラの保護活動を行っている民間団体リーダーは、トラの解体パーツの闇売買が増加
傾向にあると語る。国際市場における需要の高騰がスマトラでの違法活動を盛んにしてい
る。トラの骨は伝統医薬品に使われるために韓国向けに送られ、またトラの皮も東アジア
で人気が高い。
全国狙撃狩猟連盟ジャンビ支部長は、会員には保護動物の闇売買に関わることを強く禁止
しており、それに関わったなら会員資格をはく奪している、と述べている。

2016年3月7日深夜1時ごろ、北スマトラ州天然資源保存館に北タパヌリ県シラトム
トガ村の村長から連絡が入り、野生のトラが住民居住地区から3キロほど離れた森林に設
けられた罠にかかったことが報告された。トラは死んだので部落に運ばれたとの話に保存
館側は豚肉100キロと交換するから死骸を当方に引き渡してくれと説得したが、部落民
は聞く耳を持たず、トラ肉を分配して食った。村長はそれを止めることができなかった。
その事件が起こる前、部落民の犬が7匹姿を消しており、トラの餌食になったことをだれ
もが想像した。その間、部落民は恐怖におびえる暮らしを続け、かれらはその対策として
元凶を除去する動きに出た。罠をしかけたのである。
3月6日に体長1.5メートルの5歳くらいと見られるトラが掛かっているのが発見され
たが、そのときトラはほとんど罠から外れかかっていて、逆襲を恐れた部落民が即座に射
殺したというのがその顛末だそうだ。
トラの肉を食うのは昔からのしきたりであり、しきたりを守るためにそれを行わなければ
ならないのだ、という理由で部落民は豚肉100キロの話を蹴った。北スマトラ地方には
恐怖を与えた者の肉を食らうことでその恐怖(あるいは憎しみか?)が中和され溶解する
という考え方があり、この論理が人間に対しても適用されていたという話をわたしはかつ
て読んだ記憶がある。身内を殺した人間が裁判で死刑になると、その者の肉をわずかでも
いいから食って怨念を溶解させたというような話だ。
前の年にどこか他の部落で大勢がトラ肉を食っているシーンを写したビデオがユーチュー
ブで流されたこともある。稀にしか起こらないがありふれた話であるこのようなできごと
に引き下がる天然資源保存館ではなく、今回のシラトムトガ村の事件は徹底的に糾明して、
もしも違反行為が見つかったなら厳しく法的措置を執るとコメントしている。

2017年7月に生活環境森林省が、スマトラトラの頭数が増加していることを発表した。
400頭と言われていた頭数が600頭になっている、と言うのである。スマトラトラ保
存活動2007〜2017年状況調査の結果、その状況が確認されたことから、同省は胸
を張ってその成果を国民に喧伝した。
野生トラの棲息地はグヌンレウセル、クリンチセブラッ、ワイカンバス、ブルバッ、南ブ
キッバリサンなどの国立公園とクルムタンおよびブキッリンバン−ブキッバリンの野生動
物保護区とされている。
しかしせっかく増えた野生トラが密猟者と闇取引従事者を喜ばせる結果になっては何にも
ならない。行政と民間団体が協力して、トラの捕縛罠一掃キャンペーンがここ数年行われ
ている。クリンチセブラッ国立公園西部ではわずか一週間のうちに48カ所に罠が仕掛け
られた。密猟者たちのおそるべき執念だろう。ジャンビ州では、このキャンペーンにから
んで一年間に取調べを受けた容疑者は30人にのぼった。[ 完 ]