「恐怖のフロンテイアー(1)」(2021年02月23日)

ライター: インドネシア大学観光科D3級教官、ブディハルトノ
ソース: 2003年10月18日付けコンパス紙 "Harimau dan Hubungannya dengan 
Manusia di Dunia Melayu"

東南アジアのトラに関する研究書はあまり多くない。そのテーマに関して英語で書かれた
書籍の多くは動物園やサーカスあるいはインドにおけるトラの暮らしを著者が観察して記
録したものだ。イエール大学から2001年に出版されたピーテル・ボームハーツPeter 
Boomgaard著「恐怖のフロンティア:マレー世界のトラと人間1600−1950」は東
南アジアのトラがたどった歴史についての、ジャワとスマトラでの人間とトラの関係に重
点を置いた価値ある一冊である。

歴史家で経済学者でもあるボームハーツは人間とトラの関係についての古文書の研究に重
点を置いた。トラに対する住民感情はどうだったのか、トラの襲撃にどう反応したのか、
トラの襲撃が住民社会にどれだけの損害を与えたのか、その襲撃によってどのような行政
規則が出されたのか。たとえばジャワで出された1862年8月8日の布告で、トラを殺
した者に東インド総督が褒美を与えることが定められたように。

ボームハーツのこの著作はむしろ通時的報告記録の集大成と呼べるものだ。ところどころ
で述べられている文化関連の内容も著者が現場で観察した結果のものでない。そうではあ
っても、ボームハーツは東南アジア、特にスマトラとジャワの民衆生活におけるトラの意
味を描き出し、結論付けるのに成功している。

経済学者としてボームハーツは住民生活や、農業的であれ園芸的であれ経済活動に関連す
る役割の中にトラを位置付けようとした。更にボームハーツは支配者の庇護の意味につい
ても触れた。つまりオランダ植民地政庁が東インドプリブミを国民と見なしてその福祉と
繁栄に尽力するという観点からの問題である。

当時のオランダにとって、経済面においてトラがどれほどの影響を及ぼしたかについては、
もっと多くのデータが必要だろう。中でも、トラがたいへん頻繁に農園作業者を餌食にし
た多くの事例はそれとして、特にオランダが重要視したサトウキビ農園でそれが農園作業
者の労働意欲をそいだことは明らかなのだから。

オランダにとって大きい経済価値を持つサトウキビやその他の農園で作業者が不安におび
えながら仕事をしている状況は、植民地政庁の威厳をそこねる懸念をもたらした。プリブ
ミ民衆の庇護者たるべき植民地政庁がトラを殺すことに賞金を出したのは、その延長線上
に出現した行動だったと言えよう。


トラを殺すことを煽る布告とインセンティブは明らかに人間のための欲得あるいは東イン
ド社会全般からの人気取りを狙った植民地政庁の見栄という人間中心主義を示しているよ
うに見える。その当時のインドネシアでも、またインドのイギリス人にしても、トラ狩り
は狩猟者の誇りを示す舞台だった。その時代にそれはほとんど流行と言えるくらいのもの
になったとケネス・アンダーソンは自著The Tiger Roars(ハーパー・コリンズ1991
年)に記している。最終的な事実は、オランダ植民地政庁の褒賞金の大部分が白人狩猟者
の手に渡ったことだ。優れた銃器とトラの将来がどうなるのかといったことへのまったく
の無関心を携えて、白人が多数のトラを狩ったのである。

ボームハーツの著作と同じように、ジャワ・インド・スマトラでトラによって死亡した住
民数の単位面積当たりの比較が述べられているので、この書物も充実した内容である印象
を感じさせてくれる。たとえば、ジャワでは1820年にトラによって死んだ住民人口は
莫大な数に上っていたが、20世紀初めにはインドと同じレベルに落ち着いている。スマ
トラとビルマはトラによる死者数がジャワやインドより低かった。ボームハーツによれば
人口密度とトラによる死者数は反比例関係にあって、単位面積当たりの数値とは異なって
いるから、相対的に比例曲線を描くのである。[ 続く ]