「ヌサンタラの渡り鳥(4)」(2021年03月29日)

スンビラン国立公園には毎年9〜10月から数千羽の鳥がやってきて、11月にピークを
迎える。一方、スマトラ東海岸部の泥炭土地区では毎年9〜10月に火災が発生し、煙害
を引き起こしている。その規模が大きくなると、渡り鳥の移動に障害がもたらされて、悪
影響が起こることが懸念されている。

普通の年には、11月のピーク時に多数の鳥がやってくる。個体数の最大のものは水鳥で、
総数3〜4万羽のうちの大部分を占めている。やってきた鳥はしばらくの間そこで休息を
取り、ふたたび飛び立って南下して行くが、中にはそこで子供を育てながら3〜4カ月間
滞在して冬を越すものもいる。


2008年10月にスマトラ島東岸部にシベリアからオーストラリアに向かう渡り鳥の到
来がはじまった。しかし、かつては大勢の渡り鳥がやってきた場所を見捨てて、鳥たちが
別の場所に集まる現象も見られている。見捨てられた場所のほとんどは、自然破壊が進行
している。そのひとつがランカッLangkatのカランガディンKarang Gading動物保護区だ。
巨大なマングローブ林の一部が住宅地区・養魚池・パームヤシ園などに転換されたために、
自然がかなり狭められてしまった。

渡り鳥が東スマトラ海岸部に降りて羽を休めるのは、湿地帯の泥土の中に小魚・小エビ・
ミミズなどの餌が大量にあるからだ。遠距離を飛来してきた水鳥たちにとっては重要な餌
場である。そんなとき、引き潮が河口や浜を遠くまで露出させると、水底にいた餌が泥土
の表面に出てくる。そして数千羽の鳥による大饗宴が開始されるのである。そんな場所が
人間の生活領域に変わって行けば、鳥の降りてくるはずがない。


ロシアからオーストラリアへ移動する渡り鳥のピークは1月だ。渡り鳥観察者たちはその
時期になると鳥がやってくる中継地に出てデータを集める。2008年1月に北スマトラ
州の観察者たちが記録したデータでは、渡り鳥は8種類9千羽にのぼった。
ダイゼンPluvialis squatarola   derek besar
ソリハシシギTringa cinereus   trinil berdaran
チュウシャクシギNumenius phaeopus   gajahan pengala
オオソリハシシギLimosa lapponica   biru laut ekor blorok
燕?属Sterna sp   dara laut
ダイシャクシギNumenius arquata   gajahan besar
キアシシギTringa brevipes   trinil ekor kelabu
アカアシシギTringa totanus   trinil kaki merah

ところがスンビラン国立公園では2011年に異常なことが起こった。洪水のために海岸
部が水没してしまったのだ。その結果、やってきた渡り鳥はたったの2千羽に減ってしま
った。

ある年だけの異常現象であれば、翌年はまた昔ながらの習慣が繰り広げられるのだが、も
しも人間の生活領域に変わってしまえば、渡り鳥はもうやってこなくなる。ジャワ島イン
ドラマユIndramayuの海岸部は1970年代まで数千羽の渡り鳥がやってきていた。その
面影はもはやない。ジャンビ州タンジュンジャブンTanjung JabungのチュマラCemara海岸、
リアウ州ランプン州の東海岸、ジャカルタ北部のスリブ諸島Kepulauan Seribuも、渡り鳥
に見放されてしまった場所だ。[ 続く ]