「イギリス人ウォレス(48)」(2021年06月21日)

三日後、ウォレスとのビジネスを受けた男が生きた極楽鳥を持って来た。だが極楽鳥は袋
に入れられていたため、大いに暴れて尾や羽がたいへん傷んでおり、標本にはできない。
ウォレスはその男と6人の仲間たちに、これではだめだと事細かに説明した。自分が何を
望んでいるのかを懇切に語り、死んだもので構わないのだが、もし生きているものを渡し
たいと思うなら、木の枝に足を縛って身体が壊れないようにしなければならない、とかれ
らに告げた。

その男についてきた6人の仲間たちはやっとウォレスの希望を呑み込み、またこれはどう
やらフェアビジネスのようだという印象を得て、全員が前払い品を取った。数人が一羽分、
もう数人はニ〜三羽分、ひとりは6羽分を持って帰った。

自分たちは極楽鳥を捕まえるために遠くまで行かなければならないが、手に入れたらすぐ
に戻って来るとかれらはウォレスに約束して行った。そして数日後から、かれらは五月雨
式にウォレスのところに極楽鳥を持って来たが、袋に入れる者はもういなかったにせよ、
外観のどこかが破損していた。

かれらの中には、捕まえた極楽鳥の足を木の枝に縛って家に置き、そうやって数羽ためて
からウォレスに渡したから、その間に鳥たちは逃げようとして死にものぐるいで暴れまわ
り、中には不安や飢餓で死んだものもあった。

かれらの極楽鳥の捕らえ方は、尖った矢で射るのでなく、実に知能的な方法で生け捕る。
極楽鳥が大好きなアルムの実を鳥がよく止まる木の枝に細い紐をつけて仕掛け、鳥が止ま
ると紐を鳥の足にからめて地面に落とすのである。

仕掛けた人間は紐の端を手にして、鳥が止まるのをじっと待つ。ニ三日間、飲食なしにじ
っと待つこともあれば、時には一日に二羽三羽と手に入ることもある。土着民のそのよう
な狩猟方法をウォレスが見たのはベシルだけであり、他の土地でそのような技が使われて
いるのを見たことがない。ベシルですら、その方法を使って極楽鳥を生け捕っているのは
十人足らずだ。

ウォレスはベシルで極楽鳥の数を大幅に増やすことができた。最終的にこのワイゲオの旅
で素晴らしい標本個体が24羽も得られたのである。だがしかし、ベシルでは食料に事欠
いた。畑を含めた周辺環境から得られる野菜果実は住民の需要すら満たしておらず、その
ためまだ十分に熟していない段階で収穫され消費される。ニワトリはおらず、住民が獲っ
た魚も売ってもらうことができなかった。だからウォレス一行は食べられる鳥を撃ち落と
し、コメやサゴと一緒に食べたが、時には鳥が得られない日もあった。プラフに積み込ん
で来た食料は既にスパイスやバターが使い果たされ、ウォレスは痩せこけて奇妙な病気に
かかる始末だった。


9月末が近付いてきたため、ウォレスはムカに戻ることにした。東風の季節が終わる前に
西に向かって出帆しなければならないのだから。ウォレスと極楽鳥のビジネス契約をした
住民はだいたい取った対価に見合う数の極楽鳥をウォレスに渡した。中に猟果ゼロの者が
いて、かれは先に取った対価の手斧をウォレスに返した。6羽分の対価を取った者は、ウ
ォレスの出発予定日の二日前に5羽目を持って来た。そしてすぐに森の中に引き返した。

出発の時が来たが、その男は姿を見せなかった。ウォレス一行がプラフに乗り込み、いざ
出発しようとしたとき、かれが極楽鳥を手で掲げながら走って来たのである。かれはウォ
レスに鳥を渡し、「これであんたへの借りはない」と言った。たとえその男がそこまでし
なかったとしても、ウォレスがかれにその責任を取らせることなどできないことを、かれ
自身も十分に分かっていたはずだ。文明人の多くが期待していない未開人のそのような正
直さや誠実さを目の当たりにして、ウォレスは感動を覚えた。[ 続く ]