「アチェ料理(4)」(2021年07月15日)

アチェでは、どこへ行ってもアチェコーヒーを飲ませてくれる店がある。バンダアチェに
はkedai kopiが1001軒あると人は言う。おまけに、どこのワルンも味が違い、同じワ
ルンでバリスタが違えばまた味が違うと言うのだが、その論理で行けば、一軒の店でニ人
のバリスタが交代で仕事しているなら、2002種類の味が存在することになり、私の舌
が持っている味感はそんな微細な差異を認識できないだろうから、違いはないに等しいと
いう理屈になりかねない。

アチェコーヒーの伝統的な淹れ方は、靴下のようなかっこうの布製濾し袋を使う。そこに
コーヒー粉末を入れて熱湯を通す。濾し袋から最初に出るコーヒーは捨てられる。更に、
濾し袋から出る熱いコーヒーに風を当てるために、濾し袋は高々と上にあげて下のポット
との間に距離を置く。それをしないと酸味が残るのだそうだ。

新しいコーヒー粉末を一回入れると、それで15カップくらい作られるが、7〜10カッ
プ分あたりで、できたコーヒーをまた火にかける。コーヒーの味がそれで引き締まるとい
う話だ。

そのアチェコーヒーと最高の調味料である大麻が結びつかないはずがあるまい。共和国政
府が大麻を厳禁していなかった昔は、アチェ社会で大麻コーヒーが大手を振って飲まれて
いたことだろう。その伝統をそう簡単に消滅させるようなアチェ人ではあるまい。大麻コ
ーヒーは今でもアチェ人の間で、薄暗がりの中に生き延びているそうだ。多分、粉末コー
ヒーの中に大麻の実の粉末が混ぜられたものがどこかで作られているのだろうと推測され
る。

インターネットに書かれた体験談によれば、大麻コーヒーは決して大麻の葉を吸うような
ものではないそうだ。大麻コーヒーから得られるのは、香りの良さと味のうまさ、そして
しばらく後に、ジャムゥを飲んだ時のような活力や元気が湧いてくることだけであって、
大麻の葉を喫煙すると起こる、酔ったり幻覚が浮かんだり、といったことはまったく起こ
らない、とそれらの体験談は述べている。世界的に大流行したコピルアッkopi luwakの後
継手として大麻コーヒーがインドネシア国外で世に出る日は来ないだろうか?


アチェブサールAceh Besarで始まった面白いメニューがある。揚げた葉野菜の中にアヤム
ゴレンが数切れ隠されているもので、その一皿を数人がおかずにして食べる。アヤムゴレ
ンをうまく探し出して食べないと他のひとに取られてしまい、自分は野菜しか食べられな
い結果になるかもしれない。このメニューにアヤムタンカップayam tangkapと言う名前が
付けられているのは、野菜の中に隠れているアヤムを早く捕まえろという意味を表してい
るのかもしれない。

もちろん、野菜だけ食べてもおいしいのだから、肉をガツガツと食べる気のないひとはタ
ンカップしなくても構わないのである。1990年代ごろから、アチェ州内でアヤムタン
カップの人気が高まり、最初アチェブサールのレストランで始まったこのメニューがバン
ダアチェBanda Acehに作られた支店でも供されるようになって、幅広く好まれるようにな
った。[ 続く ]