「なまこ(前)」(2021年07月21日)

中国語でナマコは海参とも書かれる。それは海の人参を意味しているのだが、その人参が
あの緑色の野菜でなくてginsengのことだと言われたなら、中国人のナマコに対する思い
入れがひしひしと伝わって来るように思われる。ギンセンとは朝鮮人参のことなのだから。
そう、海参とはginseng of the seaなのである。

海参の福建読みであるhaisomをインドネシア人も使うようになったと思われる。インドネ
シア人はまた英語のsea cucumberの訳語としてそれをtimun lautと呼ぶこともある。しか
し本来的にはムラユ語のteripangがもっとも優勢であるように思われる。つまりインドネ
シア人はナマコをteripang, haisom, timun lautという三つの名称で呼んでいるのだ。
ムラユ語のteripangはナマコを意味する国際用語trepangとなって現代のナマコ国際市場
で使われている。


政府海洋漁業省の解説によれば、ナマコの中のHolothuroidea綱がティムンラウッであり、
それは世界に1千7百種いて40〜66種が売買されているとのことだ。インドネシアに
いるのはそのうちの4百種で、56種が売買されている。

一方のトゥリパンはAspidochirota科で、インドネシアにいるのは54種だけだ。トゥリ
パンというのはティムンラウッの一部をなす、その54種類のものを指している。だから
正確に言うならトゥリパン≠ティムンラウッということらしい。トゥリパンは食用にされ
るマナマコに該当し、ティムンラウッはナマコ類の総称と考えればよいのだろうか?


ティムンラウッはインドネシアのすべての海に棲息している。そして捕獲量は2014年
のデータで次のようになっていた。(数字はトン)
マルク〜パプア 1,629
ジャワ 1,300
スラウェシ 937
カリマンタン 599
バリ〜ヌサトゥンガラ 521
スマトラ 442

2001年以前の10年間における世界各国の生産状況を見ると、第一位はインドネシア
で、フィリピン、米国、パプアニューギニアと続く。それらの産地からの輸出が到着する
先は香港・シンガポール・台湾の三大輸入地であり、それを追ってベトナムが顔を出す。

世界最大の消費国中国で、中国人がナマコの消費にのめり込み始めたのは14世紀半ばの
明の時代だった。フカヒレ・アワビ・魚の浮袋などと共に薬膳珍味として食され始めたの
がナマコ消費の発端だったようだ。

言うまでもなく、中国人はまず近海でナマコの採集を始めた。17世紀ごろまでは中国の
海岸で採れたものが国内消費されていたが、枯渇がそれと背中合わせにやってきた。国内
で採れなくなったら、近隣諸国から買うことになる。

日本、そして東南アジアが中国人のナマコ食の供給元にされた。中国船が東南アジアに出
かけて、現地人に商品形態を教え、現地人が年中採集して乾燥させたものをモンスーンに
乗ってやってきた中国船が買い集め、逆風の季節に中国へ戻るという商業活動がパターン
化されていった。

それに輪をかけて、東南アジアにやってきたヨーロッパ船が現地人の生産する乾燥ナマコ
を買い、それを中国に持ち込んで中国貿易のバーター品に使った。東南アジアの海が育ん
でいたナマコも、減少に向かって傾斜を始める。[ 続く ]