「北スマトラの食(終)」(2021年07月28日)

コンパス紙記者はインドネシアの地からレイスタフルを無くしてはならないと書いた。シ
アンタルホテルの厨房にいるシェフは老人であり、レイスタフルの作り方は誰にも伝授さ
れないまま毎日が過ぎ去っている。このままではレイスタフルメニューは老人と共にそこ
からいなくなってしまうことが、記者には明白に思われたにちがいあるまい。プマタンシ
アンタルのレイスタフルがこの老人とともにこの地から消滅する日がやってくるのを、記
者はまぶたの裏に見たようだ。


田舎へ行くと、ひなびた菓子に出会うことがある。田舎で出会うひなびた菓子にはしばし
ば、甘いものへの欲求と腹の虫を鎮めることへの欲求が半々に入り混じって、どちらか一
方に偏することを避けた食べ物、という趣が感じられる。そこの兼合いにわたしは古人の
知恵を感じるのだが、果たして考え過ぎなのだろうか。

2014年3月、コンパス紙記者は北タパヌリ県タルトゥンからトバサモシルのバリゲに
向かう途中、シボロンボロンという小さい町を通過した。この一帯には、オンブスオンブ
スombus-ombusという名の伝統的な菓子がある。

この素朴な菓子は米粉を熱湯で練り、中にココナツの果肉を削ったものとココナツシュガ
ーまたは白砂糖を和えたものを入れ、それをバナナの葉で包み、蒸し上げただけの簡素な
ものだ。

生産者はそれを未明の内に作り、できたての熱いものを販売人が自転車で売り歩く。買っ
たひとはバナナの葉をむいて、まだ熱いものを口でフーフーと吹きながら食べる。そのフ
ーフーと吹くしぐさがオンブスオンブスという食べ物の名称になったそうだ。語源は多分
hembus/embusかもしれない。


記者は自転車で売り歩いていたブランティ・シマンジュンタッさん44歳からオンブスオ
ンブスを買い、インタビューに誘った。ブランティさんは朝暗いうちから夫婦でそれを作
っていると物語る。米粉に熱湯を注いでから手でこねる。均質にこねあがったら、ちぎっ
て丸めたものに砂糖を和えたココナツの果肉を中に入れ、円錐形に形作ってバナナの葉で
包み、蒸す。たいてい一日に3百個作り、一個1千ルピアで販売している。

確かに大きさは指でつまんで持つ程度のもので、普通の皿に置けば4〜5個載るくらいの
サイズだから、5個くらいは平気で食べられるだろう。腹に溜まる感じもあまりないから、
あっと言う間に一皿たいらげてしまうかもしれない。濃いめの紅茶の友にすれば、素晴ら
しいひとときが過ごせそうだ。

やはり米粉を使ったおやつとして、バタッ人のメニューにはティパティパtipatipaという
ものがある。これはトバサモシルのポルセアが発祥の地だそうだ。

ティパティパはまだ若い稲モミを二晩水に漬け、水を切ってから炒る。それをまだ熱いう
ちに細かく砕くのである。砕いたものから籾殻などの不純物を取り除けば、準備完了で、
いつでもそのまま食べることができる。

それに果物を混ぜて冷たい牛乳や豆乳をかければ、シリアルのできあがり。あるいはまた、
ココナツの果肉を混ぜ、甘いのが欲しければ砂糖、塩気が欲しければ塩をかけてそのまま
食べてもいい。

そのティパティパを平らに成型したものはバタッのンピンempingとして知られている。こ
のバタッのンピンもポルセアへ行けば道路脇で販売されているから、買っておいて一時の
空腹しのぎに役立てることもできる。空腹を感じたら、そのまま食べればいいだけだ。
[ 完 ]