「スラウェシ島の食(1)」(2021年09月07日)

マカッサル料理には、全国的に有名なものがいくつもある。肉が豪快に入っている印象が
わたしには強く、肉を食べたいときはマカッサル料理店をお薦めのひとつにしていた。チ
ョトやコンロという名前を聞けば、たいていのひとはすぐにマカッサルを思い出すにちが
いあるまい。
2013年10月にコンパス紙R&Dが全国12大都市住民323人から集めた統計によ
れば、好きなマカッサルのローカルフードは次のようになっていた。
sup konro  25.4%
pallu butung/pisang epe/pisang ijo 10.2%
ikan bakar  13.3%
coto Makassar  10.2%
その他  7.8%

ヌサンタラのいたるところで食されているソトsotoのマカッサル版がチョトだ。よそでは
だいたいどこでもソトと呼んでいるのに、マカッサル人はチョトと訛って差別感を出した
ところが心憎い。

チョトは牛の臓物を長時間煮込んだダシを使い、臓物と牛肉を細かく切り、スパイスを加
えて温かくしたものを食べる。食べるときはクトゥパッketupatやブラスburasなど葉で包
んで炊いた飯と一緒にいただく。

チョトマカッサルの歴史は16世紀のゴワ王国に由来すると言われており、王国の兵士が
朝食に食べるものだったというのが定説になっている。しかしその当時、牛肉は王族貴族
が食べるもので、一般庶民が食べるものではないとされていたから、ひょっとしたらその
時代のチョトは臓物だけのものと肉入りの二本立てだったのかもしれない。

庶民の牛が屠られたら、美味しい肉は上級階層に献じなければならなかった。結局庶民が
食べて良いのは残った内臓や骨腱筋などになり、それが庶民の食材にされた。この風習は
多分ヌサンタラの全土で行われていたように思われる。というのも、現代インドネシアの
伝統的庶民料理はほとんどが内臓や骨などばかりを使うのが基本になっているように見え
るからだ。

もちろん現代は庶民が自由に肉を食べて良い時代だから、料理の中に肉は常に入っている。
そうではあっても、庶民が好むメニューに牛やヤギの脚スープやら、脳みそやら睾ガンの
サテなどといった下手物が限りなく多い現象に、わたしはそこはかとない関連性を感じる
のである。


チョトに使われるスパイスは40種類あると言われている。かつてマカッサルがスパイス
交易の一大要港であったことが、住民に多種のスパイスを自在に扱う技術を涵養したこと
は疑いがあるまい。赤・白バワン、トウガラシ、コショウ、コリアンダー、クミン、クク
イ、ナツメグの実と皮、クローブ、サラムリーフ、コブミカン葉、ウコン葉、スレー、セ
ロリ葉、ネギ、リーキ、ナンキョウ、ショウガ、タマリンド、塩、砂糖、シナモン、味噌、
ピーナツ、等々。そして食前にネギのみじん切りとバワンゴレン、およびライムの搾り汁
をかける。

チョト通の食べ方は、サンバルタウチョをひとさじ加え、ライムを搾り、塩をちょっと足
す。ピーナツの旨味・コショウの辛さ・ライムの酸味に味噌が混じり合って、えも言われ
ぬ至福感が舌と腹を堪能させてくれるのである。

チョトの起源について、ジュネポント地方のガンタラgantalaが由来だという説もある。
ガンタラは馬の臓物を使う汁料理で、塩と簡素な調味料だけが使われる。

チョトは一大開港マカッサルにやってきたさまざまな外国人がもたらした味覚の集大成の
姿を示していると語るひともいる。複雑なスパイスの使用にアラブ人やインド人の影を感
じるひとも少なくないだろう。[ 続く ]