「スラウェシ島の食(5)」(2021年09月13日)

スパイスのトウガラシ・ウコン・ピーナツ・塩・トーチジンジャーの実を合わせてすりつ
ぶす。スパイスとサゴ団子、そして雑魚・海老・裂いた鶏肉を水の入った鍋に入れて煮る。
沸騰したらササゲ・ナス・ほうれん草・トマト・バナナの花・トウモロコシを入れて茹で
る。野菜が茹ったらできあがり。

これはトーチジンジャーの酸味がユニークな特徴をかもしだしているスープだ。他の素材
の酸味が使われるとカプルンにならない。必ず伝統に従ってトーチジンジャーの実が使わ
れる。この店はサゴとトーチジンジャーをルウ県パロポの町から取り寄せている。という
のも、カプルンはルウ県の郷土料理なのだから。

スープは少し白っぽい黄色の汁で、口に入れるとまず酸味が口中に広がる。その後をトー
チジンジャーとウコンの香りにまとわれた旨味と辣味と鹹味が付いてくる。続いてサゴ団
子と野菜と裂き鶏肉と雑魚を口に入れれば、個体の汁の実ととろけるサゴが口中で一体化
するのである。

カプルンは熱いうちに食べるのがベストだ。冷めると、溶けたサゴがスープを半固形にし
てしまい、スープと呼べないものになってしまう。だからカプルンは注文されてから作ら
なければならない。

この食堂のメニューには雑魚のルンぺイェrempeyek、魚の酸味煮、トウモロコシと野菜の
入ったコメ粥、サゴを使った菓子類、そしてラワlawaがある。ラワは生の小魚に酢をかけ
ただけの料理で、ブギスのラワバレlawa baleはブギスの寿司という異名を取っている。
この店のラワは生の小魚の身と炒ったヤシの果肉を合わせてトウガラシとライムの搾り汁
をかけただけのもので、板状の焼きサゴと一緒に食べる。

別の店アロマルウ食堂では、カプルンに鶏ガラスープを混ぜている。この店はカプルンの
小サイズも用意している。焼き魚と飯の食事の前菜としてカプルンを食べるひとのために、
特別な配慮をしているのだ。

カプルン食堂は5百キロ以上離れたルウからマカッサルに進出して来た。カプルンカスア
リは2003年にオープンしている。5年間は客がまばらにしか入らなかったが、その辛
抱の時期を越えてからは、週日は50〜75食、休日は百食売れるようになったそうだ。
カプルンに出会って病みつきになったマカッサル人も少なからずいるのだろう。


マカッサル名物のおやつにピサンエペpisang epeがある。焼いたサババナナを板で潰して
平べったくしたもので、アレンヤシ砂糖の水溶液をかけてからその上にヤシの果肉フレー
クを散らしたものだ。お好み次第でさらにチョコレートやチーズ、あるいはドリアンを上
乗せすることもできる。

ロサリ海岸で沈む夕日を眺めながらピサンエペを食べる趣向が昔から盛んだった。そんな
ときの飲み物はサラッバsara'bbaがお薦めだったそうだ。サラッバはジャワのウエダンの
ような伝統飲料で、ショウガ・ココナツミルク・ボネ産のヤシ砂糖を素材にしている。マ
カッサルではボネ産のものが最高なのだそうだ。

サラッバをひとひねりしたものがサルテルsartelだ。sara'bba telorがその語源であり、
サラッバに生卵を落とし込んでかき混ぜる。卵はアヤムカンプンの卵が原則だ。「生卵は
日本人しか食べない。日本の鶏卵は特別だ。」などと言っているのはいったい誰なのだろ
うか。

ワルンサラッバはたいてい夕方オープンして、翌朝まで営業する。夜が更けるとともに、
客も増加する。ロサリ海岸の夜はまだまだ賑わっているが、われわれはこの辺りでマカッ
サルにサラバを告げよう。[ 続く ]