「スラウェシ島の食(6)」(2021年09月14日)

連なる山なみの風景が素晴らしいタナトラジャ〜マカッサル街道を往くと、トラジャの地
にある街道沿いのワルンでトラジャの味覚を愉しむことができる。トラジャのひとびとが
伝統的に地元の食材を処理して愉しんできた食べ物がそれだ。そのひとつがダンケdangke
である。

ワルンの店先にトウフの塊のようなものが置かれている。それがダンケであり、それを指
さすだけで、店主はすぐに料理にとりかかる。鍋に油を敷き、少量の塩をふってダンケを
炒める。すぐに出来上がったダンケは塩・トウガラシとライムの搾り汁で作られた浸け汁
と共に供される。

柔らかいチーズのようなこのダンケは水牛のミルクから作られる。水牛ミルクを塩とパパ
ヤの樹液を混ぜて加熱するだけだ。パパヤの樹液はミルク10リッターに小さじ一杯でよ
い。パパヤの樹液がミルクを脂肪とタンパク質と水に分離させるのである。10分ほどで
ダンケができあがるそうだ。ダンケは室温で三日間もつ。冷蔵庫を使えばもっと長期の保
存が可能になる。

ダンケの食べ方はほぼチーズと似たようなもので、炒める他に焼いて食べることもする。
また飯のおかずとして、トウガラシを加えた調味料で炒めたものを食べることもある。

その名称の由来として一般に言われているのは次のような話だ。1900年ごろにオラン
ダ人がエンレカンを視察に訪れて宿泊し、翌日エンレカンを去るときに地元民が旅中の食
べ物としてこの水牛チーズをオランダ人トアンに差し上げた。するとオランダ人はDank 
je wel.と謝礼を言ったのだが、オランダ語を知らない地元民はダンキェヴェルという言
葉の前半だけをその物の名称にしたというものだ。

ダンケの他にも街道のワルンで愉しめるトラジャの味覚がある。デッパトゥトゥカンdeppa 
tetekanは米の粉をヤシ砂糖と一緒に茹で、皿に盛ってからゴマをふりかけて供される。甘
くモチモチして腹にたまるおやつは、昔から人気の高いものだった。この食べ物はトラジ
ャ人が日常的に食べているもので、旅中の食べ物としても、あるいは手土産や客のもてな
しとしても便利なために重宝がられている。密封容器を使えば、数カ月間保存が効くそう
だ。食堂でばかりか、パサルでも売られているのである。


西スラウェシ州のマンダル人の漁村では、トビウオの卵がご馳走になっている。マムジュ
〜マジュネ〜ポレワリマンダルと続くマカッサル海峡沿いの諸県で、マンダル漁民の村は
ブギス人のエリアの中にある。マンダル人がご馳走を食べたり振舞ったりするのは、婚礼
やサンデッsandeqレースの祭りといった祭事祭礼の時だ。そんなハレの日のために作られ
るトビウオの卵のグライが人気を集めている。

このグライの黄色いスープはトウガラシとコショウの辣みとこってりした旨味、そして全
体の味を引き立てるわずかな酸味が印象的だ。中に入っているトビウオの卵はつぶつぶが
筋に付いている状態でタバコ箱くらいの大きさに切られている。それを口中で噛みつぶし、
センセーションあふれる食感と味覚を愉しむのである。

マンダル人社会で特別な機会のときだけ食べられるこのグライを、知り合いもいないマン
ダルの漁村を訪れて試してみようとしてもきっと無理だろう。サンデッレースのような誰
もが訪れて良い地元の祭りを狙って訪れ、地元の漁民たちと触れ合うことができれば、チ
ャンスは得られるだろう。だが祭り好きでないひとは、そんな心苦しい思いをしなくても
マカッサルのホテルで食べさせてくれるそうだから、それを当てにした方がよいのかもし
れない。ただし、いつでも、どのホテルでも可能なのかどうかを筆者は知らないから、保
証はないと思っていただきたい。[ 続く ]