「スラウェシ島の食(7)」(2021年09月15日)

マンダル人の料理は概して辣みと脂っこさ、そして少々の酸味を特徴にしており、また汁
気が少ない。マンダルの漁民は何日間も漁に出るとき、昔から日持ちのする食べ物を船に
持ち込んだ。自ずと、食べ物は汁気の少ないものになった。トウガラシとコショウは漁師
の血行を良くして海風で体調を崩さないための配慮だった。


祭事祭礼のときにトビウオ卵のグライと一緒に食べられるものに、ププpupu、サルンデン
イカン、ソンコウビ、ブラスなどがある。ププはプルクデルperkedelのようなもので、と
ても柔らかい。その作り方はまず、カツオの身を蒸してから骨を外し、スレー・ナンキョ
ウ・塩・赤バワン・コショー・赤トウガラシ・ライムを合わせて細かく潰す。そこに米の
粉を混ぜて一片が5センチほどの三角形に形作り、弱火で揚げる。中まで均一に火が通っ
たかどうかは、外皮が茶色になることで分る。

ププは普段からブラス、クトゥパッ、ソンコウビなどと一緒に、みんなが普通に食べてい
る。右手にクトゥパッ、左手にププを持って、互い違いに?み切って食べるひともいる。
朝食をププと温かいコーヒーや紅茶で済ませるひともいる。カツオの味覚満点のこのプル
クデルは、さすがに漁村の味覚を堪能させてくれるものだ。


マカッサル海峡のパレパレやポレワリ=ママサの漁民は昔からトビウオを自家消費のため
に捕獲した。他の魚は売り物にする傾向が高かったということだろう。トビウオは高く売
れないから自家消費にしたが、トビウオが大漁であれば売らなければ仕方ない。安い価格
で売られるトビウオは低所得層庶民の常用食糧になったようだ。

スラウェシ島の反対側のフローレス海に面したタカラルやブルクンバでも似たような状況
だった。実に面白いことに、それらふたつの海に棲んでいるトビウオは別種であって、同
一種ではないのである。ともあれ、スラウェシ島南部の社会において、トビウオは庶民の
食べ物だったと言えるだろう。

元々、マンダル漁民はトビウオの捕獲をするだけで、卵はたまたま手に入ったときだけ取
っていた。そしてすべてを自家消費した。1970年代になって日本の水産会社がマンダ
ル漁民にトビウオの卵を高値で買うことをプロモートし、マンダル漁民は卵を標的にする
ように変わっていった。

以来、マンダル漁民は5〜9月の期間、トビウオの卵漁を行っている。昔はマンダル型小
型帆船のサンデッが使われたが、今ではモーターボートが使われる。その時期、漁師たち
は長いロープにヤシの葉や海藻をたくさん結び付けたものを沖合に持って出て海に浮かべ
るのである。10〜15日経ってからその仕掛けを回収すると、葉や海藻に産み付けられ
た卵の大収穫となる。

卵漁のシーズンに5〜7人の漁民グループは15回出漁して生の卵を最高で7百キロ収穫
する。少なくても3百キロは集めて来る。卵は水洗いしてから1〜2日間天日乾燥させる。
十分に乾燥させたものは一年間保存できる。そして自家のストックに少量だけを取り分け、
残りは全部買付け人に売り渡す。

マンダルの漁民家庭は干したトビウオの卵を必ず保管している。特別の祭事や重要な客を
もてなすために必要なだけを自家保存しているのだ。なにしろ、他の漁獲に比べてたいそ
うな高値で売れるのだから、全部自家消費するなんてとんでもないという話になるのであ
る。

その成果がマンダル漁民の最高級料理トビウオの卵のグライとなって結実した。料理をす
る際には乾燥卵を一晩水に漬け、翌日グライを作る。揚げ物にする場合は水に漬ける必要
がなく、そのままゴレンすればよい。揚げ卵はアチャルacarととてもよく合うそうだ。
[ 続く ]