「スラウェシ島の食(8)」(2021年09月16日)

西スラウェシ州マジュネ県の県都からマムジュ方面にトランススラウェシ街道を19キロ
北上するとソンバの村がある。このソンバでトビウオの燻製が名物になった。街道を車で
走れば、標識や掲示などなにひとつないのに、ソンバの村はすぐに判る。道路脇に見すぼ
らしいワルンが並んでいて、どのワルンでも中から煙があふれ出ている場所が見つかれば、
そこがソンバなのだ。

燻製はその場で作られる。生のトビウオを水洗いし、かまどの上に並べられたヤシの葉脈
の上に整列して置かれる。かまどの中は海岸で拾って来た流木を乾燥させたものが燃やさ
れる。「燃やされる」と言っても、火が出てはならない。小さい炎が芽吹いた場合でも、
すぐに水がかけられる。

トビウオは火であぶるよりも燻製にするほうがずっと旨味が出る、と店主は語る。皿に置
かれた燻製トビウオの茶色い皮をはがすと、温かく柔らかいトビウオの身が現れる。口に
入れれば、まるでミルクフィッシュをほうふつとさせてくれる。骨の多いミルクフィッシ
ュよりもずっと食べやすい。


ソンバは元々、その街道を車で走るひとたちが炎暑の海岸走行で疲れて一休みしたくなる
ころに出現する位置にある。当然昔から複数の飲食ワルンがそんな客を待ち受けていた。
2000年代に入ってから、一軒のワルンがトビウオの燻製を客に供し始めた。そしてほ
んのしばらくの間に、40軒ほどのすべてのワルンがトビウオの燻製料理を提供するよう
になったのである。

燻製トビウオは普通、サンバルマタを付けて食べる。バリ語のsambal matahはインドネシ
ア語のsambal mentahだ。トウガラシ・トマト・バワンを細切れにして少量の油と一緒に
混ぜれば出来上がる。

もうちょっと腹を満たしたければ、ジェパjepaがある。キャッサバとヤシの果肉を練り合
わせて素焼き鍋で焼いたものだ。焼き方はスラビのような印象だが、ふたが中身を抑えつ
ける構造になっていて、出来上がりは丸く平らな板のようになる。ただしこのジェパを食
べた後は、水をガバガバ飲んではいけない。腹の中でジェパが固まるからだ。

それが怖ければ、ソッコルラメアユsokkol lameayuがある。これはキャッサバとヤシの果
肉と緑豆の練り物をバナナ葉で包んで蒸したもの。ロントンのようなブラスburasやモチ
米を包んで焼いたゴゴスgogosなどもワルンに常備されている。


スラウェシ島北端でフィリピンに近い北スラウェシ州では、島内のすべての州と同様に海
の幸も豊富だ。ビトゥンでは生魚まで食されていて、ビトゥンの刺身の異名を取っている。
参照記事は ↓↓↓
http://indojoho.ciao.jp/2016/0825_2.htm
http://indojoho.ciao.jp/2016/0826_2.htm

ところが、海の幸も山の幸も貪欲に食べるミナハサ人は、犬・コウモリ・ネズミ・サルに
至るまで、ありとあらゆる肉をも食べる。おまけにオランダ文明に習った料理や菓子類ま
で日常のものにしているのだから、この地のひとびとの食のバリエーションには驚嘆の思
いを禁じ得ない。

元々スラウェシ島北端半島部はミンダナオ島スルタン国の属領になっていた。テルナーテ
にポルトガルが足掛かりを設けたころ、ポルトガル船はマラッカとの往復に際してその半
島部にしばしば寄港していたが、1512年にアムランに要塞を設けるに至った。アムラ
ン要塞の記事はこれ。↓↓↓
http://indojoho.ciao.jp/2019/0807_1.htm
http://indojoho.ciao.jp/2019/0812_1.htm
[ 続く ]