「ウシ ウシ ウシ(12)」(2021年09月21日)

それらの外来の水牛とトラジャ水牛は明らかに違いがある。トラジャ水牛は概して身体が
大きく頑丈であり、体重はだいたい3百キロを超える。中には身体が白と黒のまだらにな
っている者もいる。そのまだら水牛が、珍しいがゆえに人気を集め、価格が高騰するので
ある。おかげで金持ちは自分のステータスを示すために高価なまだら水牛を買い、そして
屠る。貴族の家系は、要人の死にだれも真似のできない豪勢な振舞いをすることがある。
そんな特別なランブソロでは、百頭近いまだら水牛が一時に屠られるのだ。トラジャの水
牛年間需要9千頭のうちの1割がまだら水牛だと言われている。

普通のトラジャ水牛は角も長めで、大人が両手を広げたくらいの長さに達する者もいる。
その長い角が下向きに湾曲していれば、また値が上がる。まだら水牛でまだら模様が全身
を覆い、角が長く、しかも下に向かって湾曲していれば、高級四輪車の上位クラスと太刀
打ちする価格が付くことは間違いなさそうだ。

そういう特別な特徴を持たない普通のトラジャ水牛は、体重と価格が正比例する。飼育者
は仔水牛を購入すると、それをお宝に成育させるために涙ぐましい努力を払う。体躯を発
育させるために毎日ミルクとアヤムカンプンの卵十個を与え、角を長くするためにライム
の搾り汁と特製の液体を耳の傍から出て来た骨に塗るのである。そんな日課が、水牛が5
歳になるころまで続けられる。

トラジャのトンコナンの外壁に飾られる水牛の角は、そんな社会的な意味合いを示すもの
なのである。意地の悪い言い方をするなら、高級四輪車を何台つぶしたか、という財力を
それによって誇示していると見ることもできるだろう。


数十頭の水牛が巨躯を連ねて湖面を泳いている。パンガンPanggang湖の浅瀬に打たれた杭
に重ねた丸太で床を作った檻を出た水牛たちは、小舟ジュクンに乗った牧童に率いられて
百メートル以上離れた餌場に泳いで向かう。午前7時過ぎ、南カリマンタン州フルスガイ
ウタラ県奥地の湿地帯の空気は爽やかだ。

パンガン湖は県都アムンタイから23キロ離れているが、パンガン湖に面したパミンギル
郡タンパカン村はアムンタイから50キロ離れていて、交通は川を船で往来する以外に方
法がない。その地方は州都バンジャルマシンから248キロも離れている。

水牛を120頭保有しているタンパカン村民ファッリさんは、集落から少し離れた湖の浅
瀬に5x40メーターの檻を作っている。檻と言っても床とフェンスがあるだけの簡素な
構造だ。村民たちが作っている檻は互いにたいへん離れて作られている。必然的に、水牛
の行動エリアもほとんどクロスすることがない。

雨季になって湖の水嵩が増すと、青年から大人の年齢の水牛は牧童が毎朝檻から出して餌
場に連れて行き、毎日17時ごろ檻に連れて帰る。雨季の場合、仔水牛は檻から出さず、
牧童が草を檻に持って行く。仔水牛の檻の床は低く作られていて、乾季でも常に水が被る
状態になっている。

だから、雨季になると牧童の仕事はたいへんになる。毎朝、水牛を檻から出してかなり離
れた餌場に連れて行き、仔牛のための餌を刈って檻に戻り、夕方また水牛を迎えに行って
檻に連れて帰るのである。雨季の水嵩が増した湖面を水牛たちは泳いで往復する。

乾季の場合は水位が低いので、連日、湿地の中で生活させる。水牛たちは群れを作って草
を食い、泥浴びをしたり湖水に浸かることを楽しむ。すべての水牛が常に群れの中で行動
しているわけではない。餌場に散らばって三々五々小グループで行動している水牛もいれ
ば、一頭だけで孤高を滲ませている者もいる。時には、夕方牧童が全員集合をかける前に、
一頭だけで先に檻に帰って来る水牛もいるそうだ。まるで人間のようではないか。


水牛たちが主に食べているのはパディヒヤンpadihiyangと呼ばれている穀草で、稲のよう
に先端に穀物ができる。サイズは稲より大きい。水嵩が増してパディヒヤンが水中に沈む
と、水牛は泳ぎながら水中に頭を突っ込んでパディヒヤンを食べ、また頭を水上に出す。
だがそれは水牛たちがパディヒヤンを見つけたからできることだ。増水が長期に及んで湖
上が一面濁った水面に変わってしまったあと、水中のパディヒヤンを探し出そうとするこ
とまではしない。[ 続く ]