「スラウェシ島の食(13)」(2021年09月23日)

ヌサンタラの各地に見られる竹筒を使う調理法もミナハサで古来から行われて来た。ミナ
ハサでは竹をbuluhと呼ぶ。料理の容器に使われる竹はブルッイカンbuluh ikangと呼ばれ
る特別のもので、肉厚が0.5センチある。

この調理法の代表選手がayam isi buluhだろう。babi isi buluh, tuna buluh, cakalang 
buluhなどもあるし、nasi jaheやdaun pangiも竹に詰めて料理される。ナシジャヘはミナ
ンカバウのルマンlemangに似ているが、ショウガ味である点が違っている。コメあるいは
モチ米を洗ってからココナツミルクに漬け、ショウガ・コブミカン葉・パンダン葉・スレ
ーを加える。それをバナナ葉で内張した竹筒に詰めてバナナ葉でふたをし、火であぶれば
ショウガ飯ができあがる。

竹詰めニワトリは竹に入りやすいサイズに鶏肉を切る。赤白バワン・ショウガ・ウコン・
ナツメグ・トウガラシと塩砂糖を合わせてすりつぶし、ウコン葉・コブミカン・ワケギ・
パンダン葉を適当なサイズに切ったものと混ぜて鶏肉にからめ、バナナ葉で内張をした竹
筒に詰めてバナナ葉でふたをして火であぶる。ニワトリ一羽に対してトウガラシ一握りだ
そうだ。およそ1時間かけてあぶると出来上がりで、竹筒をひっくり返して中身を皿に取
り出すと、ニワトリの脂が絶妙に溶けだしていて、濃縮スープの感触が愉しめる。これを
ナシジャヘと一緒に食べて、両方に載っている竹の風味を満喫するのである。

ニワトリの火の通りを確実にしたいひとは、鶏肉を先に軽く炒めておけばよい。竹節の長
さにもよるが、普通のものだと竹筒一本で10〜15人分くらいの量になる。

ブルッ料理の火はたいてい木とヤシ殻繊維を燃やす。食材が入った竹は火から50センチ
ほど離してあぶる。竹が燃えると中身が焦げるからだ。しかし火から離れ過ぎるとjauh 
panggang dari apiと言うことになるのだろう。そして竹は5分おきくらいに少しづつ回
転させて、火の通りを一様にする。


魚の調理法で人気の高いものにパンピスpampisがある。これはロアやカツオなどの魚をま
ず蒸して身をフレーク状にし、それをトウガラシ・ショウガ・赤バワンと一緒にして炒め
たものだ。水気がなくなるまで炒めるので時間がかかる。イカのパンピスもある。

野菜の炒め物としては、パパヤの花、バナナの花、クルワッの葉daun pangiなどが人気の
ある惣菜だ。

ミナハサ料理の特徴のひとつに、多彩な葉が使われて料理に新鮮感をもたらしていること
が挙げられる。daun kemangi, daun jeruk, daun sereh, daun bawang, daun gedi, daun 
bulat, daun selasih, daun cengkih, daun pandan。ただしdaun pintuだけは使わないと
いうのもかれらの好きなジョークのひとつだ。


中南米原産のトウガラシはイベリア人が世界に広めたものだ。ポルトガル人やスペイン人
がやって来る前、ミナハサ人はリチャを知らなかったにちがいあるまい。であるなら、ト
ウガラシを知らなかった時代のミナハサ料理は辣くなかったのだろうか?

サム・ラトゥラギ大学歴史学者は、トウガラシをまだ知らなかった時代のミナハサ人はゴ
ラカgorakaと呼ばれるミナハサの赤ショウガで辣みを取っていた、と述べている。しかも
ゴラカはトウガラシに負けない辣さだったそうだ。辣味志向はミナハサ人の伝統文化だっ
たと言えるだろう。[ 続く ]