「ヌサンタラの馬(4)」(2021年10月08日)

他人の家畜を預かって飼育しているひとびとは、夜の夜中でも家畜が安全な状態にあるか
どうかを見回らなければならない。スンバ島にも家畜泥棒がいる。4〜5人で密かに盗む
泥棒もあれば、中には20人以上が手に手に刃物を持ち、集団で村を襲って何十頭もの家
畜をあらいざらい奪って行くのもある。泥棒と言うよりは強奪だろう。

奪った家畜の群れをかれらは馬に乗って数十キロも離れた場所に護送して行くのだ。まる
で米国の西部開拓史に出て来る一シーンのようだ。もし最初から一桁の盗みを行う計画の
場合、ピックアップトラックを1台から数台用意し、盗んだ家畜をトラックに載せると風
と共に去っていくスタイルもある。

馬をターゲットにした盗みは特に、伝統的な慣習が馬を屠ることを義務付けている要素が
大きい。他にもパソラや競馬などで馬の需要が起こり、馬が商品になっているという要素
もある。古いデータだが、東スンバ県ワイガプ地方裁判所で2010年に168件の強盗
事件が裁かれたが、その中の98%が家畜の強奪だったのである。東スンバ県令は警察に
対して、草原で起こる強奪事件では、警官は犯人に対して即時発砲するように要請した。
それこそまるで西部開拓史に瓜二つではないだろうか。


盗難対策としてスンバ島の四県では、馬・牛・水牛などの大型家畜に関して家畜所有者証
明書kartu tanda pemilik ternakを発行するシステムを2009年から開始した。そのた
めスンバ島では、家畜の誕生と死亡が役所で管理されている。持ち主は馬や牛1頭ごとに、
誕生と死亡を役所に届け出ることが行われている。

特にスンバ島の港から家畜を送り出す際のチェックを厳重にしたことから、盗んだ家畜を
島外に売るのが困難になって、島内での家畜盗難や強奪事件は減少しているとの警察の説
明だ。

ある時、多数の家畜を飼育しているブラムさん30歳の馬が6頭姿を消した。広い草原を
探し回った結果、所有者の烙印を押してある5頭は見つかったが、買ったばかりでまだ烙
印のなされていない一頭は行方が知れなかった。

一族総出で情報を集め回った結果、ひとりの容疑者が浮かび上がった。ブラムさんは警察
の応援を頼み、自分の一族数十人と共にその容疑者の家を包囲して捕まえ、警察に容疑者
の取り調べをゆだねた。容疑者は警察に自供し、裁判で入獄刑が下されて服役中とのこと
だ。

あるいは別の事件も起こる。ある時、ブラムさんの牛3頭が刃物で刺されて瀕死状態にな
っているのが見つかった。近くに野菜畑を作っている者がおり、ブラムさんの牛がその畑
を荒らしたことがその事件の経緯だろうと推測された。

自分の牛が悪さをしたなら損害賠償するから、牛を殺した者は名乗り出てくれと近隣社会
に呼び掛けたが、だれも名乗り出て来ない。期限を切ってその日までに名乗り出てくれと
再度要請したが、相変わらずなしのつぶてだった。期限日が過ぎた翌日、ブラムさんの一
族は野菜畑を作っている者が飼っている水牛11頭の首をはねた。


スンバ島では競馬が盛んだ。競馬は島民の娯楽であり、賭け事の機会を提供するがために
嫌が上にも催事は盛り上がる。インドネシアのあらゆる土地で行われている動物同士の闘
いや走り競争は、みんな賭け事が伴われているのが普通なのだ。但しその賭け事は観客同
士が自由に相手を選択して行っているものであり、胴元制の賭博ビジネスが存在している
わけではない。つまり、催事の趣旨や催行者の意向とは関係なしに、見物人が勝手に行っ
ていることなのである。[ 続く ]